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ぎゅうにゅうせっけん

こだわりのある長女にとって、欠かせないもの。
その第一は、牛乳石鹸だ。
お風呂に入るとき必要なのは、「牛乳石鹸」と「リンスのいらないメリット」だ。
長女は石鹸をいっぱい泡立てて体中を洗うから、石鹸がすぐ小さくなる。
石鹸が小さくなると、長女はお風呂場から大声で叫ぶ。
とても悲壮な声で。
少し震えた声で。
「ぎゅうにゅうせっけんくださああい。」
それで、新しい石鹸を持って行って、小さくなった石鹸と新品を取り換える。
私から見れば、まだ十分使えるけどな、というような微妙な大きさ。

新しい石鹸をもらった長女は、楽しそうに泡を立てている。
ま、楽しければいいか。
さて小さくなった石鹸はどうするかというと、ポプリなど入れる目の粗い生地で作った袋に入れる。
その袋の中には、もう相当な数の小さくなった石鹸が入っている。
それを袋ごとぎゅううっとして、全部くっつけて、袋入り石鹸にする。
それは、私が台所で、手を洗ったり、布巾を洗ったりするときに使う。
いいにおいだ。

でもなんで牛乳石鹸なんだろう。
他の石鹸じゃお風呂に入らないのだ。
そういえば、プールで一緒のぷーちゃんも、
「ぎゅうにゅうせっけん、よいせっけん。」と歌っている。

以前見た、「それでもボクはやっていない」という映画で、忘れられないシーンがあった。
もたいまさこ扮する母親が、拘置所に息子への差し入れを持っていく。
日用品は所内に備えてあるからいらないと断られると、
「牛乳石鹸だけでも、息子に渡してください。」と言う。
すがるように。
悲壮な声で。

そして私は思った。牛乳石鹸の魅力って何なのだろう。

わからない。

周防正行監督 2007年

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