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ホーホケキョのおじさん

「ほーほけきょのおじさん、こないねえ。」と長女が言う。
朝、バスを待っている間、車道を行く自動車や、歩道を行く人たちをながめながら、親子で話をする。
ホーホケキョのおじさんというのは、自転車に乗りながら、上手な口笛で、
「ホーホケキョ、ホーホケキョ。」と繰り返しているおじさんのことである。
おじさんの自転車の荷台には、プラスチックの蓋のない衣装箱が、ひもで括り付けてある。

初めて聞いた人は、本物のうぐいすが鳴いているのかと思ってしまう。
だけど、真冬だったり、真夏だったりして、「ホーホケキョ。」の口笛を聞いた人は、びっくりしてしまう。
こんな真冬にうぐいすが鳴いている?なんで?

ある日突然、市内のあちこちに出没するホーホケキョのおじさん。
地理的には、市内の東側でよく見受けられるが、本人の気ままな移動のため、どこで出会うかはわからない。
だから、遠くから、
「ホーホケキョ。ホーホケキョ。」の口笛が聞こえてきた時、長女は
「あ、ホーホケキョのおじさんだ。」と、飛びあがらんばかりに喜ぶ。
こんなに、長女を喜ばせてくれるおじさん。
いったい、何をしている人なんだろう。
なんて考えなくてもいいものを、考えてしまった私の人間の小ささ。
そして出会ったときに、じっくり、見てみた。
とあるマンションの、粗大ごみ置き場を覗いて、何も置いていないのを確認して、また自転車に乗って立ち去っていった。

ああ、私は、現実的すぎるな。
長女のように、「ホーホケキョ」の口笛を楽しみ、おじさんの姿がしばらく見えないと、
「おじさん、どうしたのかなあ」と思いやるやさしさだけで十分だった。

おじさん、お元気でいてください。
長いこと会えないと、入院でもしているのかなあ、御気分すぐれないのかなあなどと、親子で心配しております。

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