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児童精神科医の気になる論文:COVID-19とADHD

COVID-19パンデミック時のADHDの治療はどうしていくのが良いのでしょうか。欧州ADHDガイドライングループが学会誌にコメントを出していました。オンライン診療の導入、薬物療法の継続、副作用のチェックなど臨床的示唆に富むものでした。

Cortese, S., … Simonoff, E. (2020). ADHD management during the COVID-19 pandemic: guidance from the European ADHD Guidelines Group. The Lancet Child & Adolescent Health, 2019(20), 2019–2020. https://doi.org/10.1016/s2352-4642(20)30110-3

  周知のようにCOVID-19は、私たちの生活全般に影響を及ぼしています。注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの発達障害を持つ場合、このパンデミックや社会的な孤立感によってより問題行動が増えるかもしれないと指摘しています。

感染拡大防止とソーシャルディスタンスの確保を理由に、英国王立精神科学会や米国精神医学会のガイダンスなどは、電話や適切なオンライン診療を勧めています。

・Royal College of Psychiatrists. PIPSIG guidelines for the use of telepsychiatry. www.rcpsych.ac.uk/docs/default-source/members/sigs/ private-and-independent-practice-pipsig/pipsig-telepsychiatry-guidelines- revised-mar16.pdf (accessed April 13, 2020).

・American Association of Psychiatry. Telepsychiatry. https://www.psychiatry. org/psychiatrists/practice/telepsychiatry (accessed April 13, 2020).

オンライン授業とADHD

  COVID-19の危機は、特に思春期の子どもたちにとって、そしてADHDを持つ子どもたちにとっては大変かもしれません。クラスターがあると社会的に注目されることを恐れるために、学校や教師はすべての生徒に感染管理を協力してもらう必要があります。しかしながら、ADHDはその特性からじっと座ってオンライン授業に参加していられるでしょうか。オンラインで指示された宿題を注意深く聞き取り、それを提出しているでしょうか。


 ADHDを持つ子どもを持つ家族のために、ペアレンティグのスキルの向上を指摘しています。日本ではペアレントトレーニングが一番考えやすいかもしれません。これは、現在の状況では対面での支援が不可能な場合、親は有効性が実証されているオンラインを導入する必要があるかもしれません。

Daley D, Van Der Oord S, Ferrin M, et al. Practitioner review: current best practice in the use of parent training and other behavioural interventions in the treatment of children and adolescents with attention deficit hyperactivity disorder. J Child Psychol Psychiatry 2018; 59: 932–47
Dose C, Hautmann C, Buerger M, Schuermann S, Woitecki K, Doepfner M. Telephone-assisted self-help for parents of children with attention-deficit/ hyperactivity disorder who have residual functional impairment despite methylphenidate treatment: a randomized controlled trial. J Child Psychol Psychiatry 2017; 58: 682–90.
Daley D, O’Brien M. A small-scale randomized controlled trial of the self-help version of the New Forest Parent Training Programme for children with ADHD symptoms. Eur Child Adolesc Psychiatry 2013; 22: 543–52.
Katzmann J, Hautmann C, Greimel L, et al. Behavioral and nondirective guided self-help for parents of children with externalizing behavior: mediating mechanisms in a head-to-head comparison. J Abnorm Child Psychol 2017; 45: 719–30
DuPaul GJ, Kern L, Belk G, et al. Face-to-face versus online behavioral parent training for young children at risk for ADHD: treatment engagement and outcomes. J Clin Child Adolesc Psychol 2018; 47 (suppl 1): 369–83.



オンラインADHD診療の問題点


 新型コロナウイルス感染症が拡大している現状であっても、ADHDをの治療は継続するべきでしょう。しかしながら、新型コロナウイルス感染症による影響によって、日数制限のある薬剤などでは継続的な投薬を継続できなかったりすることがあるかもしれません。それは、広く考えてCOVID-19に関連した健康リスクを高める可能性と言えるでしょう。日本では厚生労働省が重い腰を上げて、COVID-19発生時に電話再診を認めてくれるようになりました。必要としている人に患者側だけでなく医療者側のリスクを下げつつ、ADHD治療薬を継続することへの柔軟性を高めてくれました。

 ステイホームによる子どもたちのストレスから、その用量を増やしたり、追加したりすることを避けるべきと論文では指摘しています。昼夜逆転などの乱れた生活を管理するための抗精神病薬の使用も使用も避けるべきでしょう。

Cortese S, Holtmann M, Banaschewski T, et al. Practitioner review: current best practice in the management of adverse events during treatment with ADHD medications in children and adolescents. J Child Psychol Psychiatry 2013; 54: 227–46.

 いつくかの抗ADHD薬では定期的な心電図や血液検査が必要となります。しかしながら、感染拡大の状況では、対面評価を行うことのリスクがそれらのモニタリングの利点を上回るので、定期的な対面訪問が復活するまで延期することを論文では触れています。可能であれば、家庭用血圧計を用いた血圧と心拍数のモニタリングを使うと良いでしょう。

 患者は、心血管系の症状(例:胸痛、長時間の動悸、呼吸困難)が現れた場合、またはその他の疑わしい症状が現れた場合には、処方者に連絡し、睡眠導入遅延は、精神刺激薬治療中に起こりうる有害事象ですが、睡眠障害は、ストレス、深夜の覚醒、日常生活の乱れなど、COVID-19の発生に関連しうる他の要因によって引き起こされる可能性もあります。治療範囲を超えて睡眠導入剤の投与量を増やすことよりも、適切な睡眠衛生を強化が大事でしょう。

 Bruni O, Alonso-Alconada D, Besag F, et al. Current role of melatonin in pediatric neurology: clinical recommendations. Eur J Paediatr Neurol 2015; 19: 122–33.


 精神刺激薬による治療中に頭痛が起こることがある。COVID-19患者におけるイブプロフェンの好ましくない効果の不確実性があり、疼痛管理にはイブプロフェンよりもパラセタモール(アセトアミノフェン)を優先すべきでしょう。

 UK Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency. Government response: ibuprofen use and coronavirus (COVID-19). March 20, 2020. https://www.gov.uk/government/news/ibuprofen-use-and- covid19coronavirus (accessed April 14, 2020).


まとめ

 COVID-19は、子ども、若者、およびその家族にとって多くの課題を引き起こし、ADHDを持つ人々にも影響を与えています。ペアレンティングに焦点を当てたADHDの介入で日常的に推奨されている戦略を活用し、子どもや若者のためのメンタルヘルスへの介入を行うことが重要になります。投薬を開始し、モニタリングするために、日常的に対面での臨床訪問を行うことができないことは、薬物療法の絶対的な禁忌とみなすべきではありません。むしろ、一部の国で実施されているCOVID-19の制限の下で薬物療法を開始または維持することのリスクと利点を慎重に検討すべきでしょう。薬物療法の使用が望ましいと考えられる場合には、遠隔監視のための戦略を実施すべきであるとまとめています。