kawabi

大学で毛髪を研究しています。毛髪に関することを書いています。

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最近の記事

加齢について

加齢に伴う組織機能不全について  加齢は私たちの体に様々な変化をもたらします。この記事では、年齢を重ねるにつれて体の組織や器官の機能が徐々に低下していく現象、いわゆる「加齢に伴う組織機能不全」について解説します。  まず、細胞レベルでの変化から見ていきましょう。加齢に伴い、テロメアの短縮により細胞分裂能力が低下します。また、ミトコンドリアの機能低下により活性酸素種(ROS)の産生が増加し、リソソーム活性の変化により細胞内老廃物の蓄積が起こります。  組織幹細胞の機能低下

    • 皮膚若返りサイトカイン阻害剤

      IL-17タンパク質が皮膚の老化に中心的な役割を果たしています。  IL-17シグナルの上昇は、皮膚における多くの加齢に伴う組織機能不全を組織化しています。これは年齢を重ねるにつれて体の様々な組織や器官の機能が徐々に低下していく現象を指します。  加齢中のIL-17シグナル伝達を遮断することは、皮膚の炎症性状態を軽減し、加齢に関連した形質の出現を遅らせます。12週間、加齢マウスの生体内でIL-17を遮断すると、以下の結果が得られました。 真皮細胞の炎症性転写状態の改善

      • RET遺伝子と髪の色

        髪の色と白髪に関するRET遺伝子の役割  髪の色が変わったり、白髪が増えたりする理由は様々ですが、その中でもRET遺伝子が大きな役割を果たしています。この遺伝子の働きを理解することで髪の色の変化や白髪になる仕組みをより深く知ることができます。 RET遺伝子から作られるタンパク質(c-RET)は、髪の毛の根元にある細胞に存在します。これがどのように影響を与えるかというと髪の成長サイクルの調整とメラニンの生成です。 RET遺伝子とメラニン幹細胞  髪の色を保つために重要な

        • 脂肪の影が揺らめく

          毛包の成長が促進され、同時に真皮脂肪細胞の増殖が引き起こされます。  毛を作る器官である毛包が成長するとその下の真皮脂肪細胞層も厚くなります。その逆に、毛包が退行して休止期に入ると、真皮脂肪細胞層は薄くなります。この連動は体を寒さから守るために重要です。  毛包の成長と真皮脂肪細胞層の厚さの変化は、特定のシグナル伝達経路(Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路)の活性化と関連しています。この経路が活性化されると毛包の成長が促進され、同時に真皮脂肪細胞の増殖が引き起こされます

        加齢について

          スキン・ディープ

          肌の色素生成に対する理解を深める上で重要であり、日光による肌の変化に関連しています。  皮膚の色素は、紫外線(UV)によってもたらされる日光の影響を受けます。メラノサイト(色素を生成する細胞)と呼ばれる細胞が皮膚の深い層にあり、メラニンと呼ばれる色素を作り出します。  このプロセスはMITFによって調節され、太陽光が肌に与える影響と関連しています。MITFは皮膚の色素生成に重要な役割を果たし、特定のホルモンの作用に反応して活性化されます。この経路は肌の色素生成に対する理解

          スキン・ディープ

          DHTの呪縛

          フィナステリドは男性型脱毛症や前立腺肥大症の治療に用いられる薬です。  フィナステリドは白色の結晶粉末で水には溶けません。化学的にはステロイド構造を持ちますが、男性ホルモンとしての作用はありません。具体的には、男性ホルモンであるDHT(ジヒドロテストステロン)への変換を抑制する働きがあります。このDHTの変換を阻害することで、男性型脱毛症の治療や前立腺肥大症の症状の改善に使われます。  人体にはⅠ型とⅡ型の2つの5-還元酵素があります。フィナステリドは主にⅡ型を抑制するこ

          組織工学の恐るべき毛包再生

          皮膚の再生を目指して、毛包を含む人工皮膚の生成方法が提案されました。  この方法は重度の皮膚損傷や毛包関連の疾患の治療に革新的なアプローチを提供する可能性があります。具体的には3Dプリント技術を使って、毛包の微細な構造を再現し、培養したヒトの細胞を導入します。  これにより皮膚再生は促進されました。また血管化された皮膚組織の移植により、皮膚と毛包の生存率が向上しマウスでの人間の毛の成長を効率的に促進します。この方法は、医薬品や化粧品の開発にも役立ち、患者の治療法や毛髪再生

          組織工学の恐るべき毛包再生

          不明な機構による再プログラミング

          Y-27632は、未知のメカニズムで条件付きリプログラミングを促進する化合物である。  条件付きリプログラミングは、通常の細胞や病気の細胞を無限に増殖させる細胞培養法です。ROCKと呼ばれるタンパク質を阻害するY-27632を培地に添加することで、上皮細胞は連続して増殖できます。  この技術は、元々はケラチノサイトなどの正常な上皮細胞の培養法として開発されましたが、最近では呼吸器乳頭腫や水疱性皮膚症などの治療にも応用されています。またリプログラミングは、細胞の無限増殖や幹

          不明な機構による再プログラミング

          紫外線への対抗と健康維持のキープレイヤー

          色素形成に関する研究は、私たちが日常的に経験する皮膚の健康と美しさに直接関わる重要なテーマです。  皮膚の色素沈着は私たちの健康を守るために重要な役割を果たしています。太陽からの紫外線放射から身を守るために、皮膚はメラニンと呼ばれる色素を生成します。メラニンは、メラノサイトと呼ばれる細胞が合成し、メラノソームと呼ばれる小器官に蓄積されます。このメラニンは、私たちの皮膚や髪の毛を色付けするだけでなく、紫外線からの損傷を軽減する重要な役割を果たしています。  メラニンの生成は

          紫外線への対抗と健康維持のキープレイヤー

          Wntの奇妙な支配

          Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路は多細胞生物の発生、組織形成、および細胞増殖に関与する重要なシグナル伝達経路の一部であり、正常な細胞機能の調節に不可欠です。 このシグナル伝達は主にWntタンパク質とその受容体であるFrizzled受容体ファミリーによって媒介されます。Wntタンパク質の結合により、Frizzled受容体はシグナルを受け取り、細胞内のβ-カテニンの蓄積を引き起こします。  このプロセスにより、β-カテニンは細胞質内で安定化し、細胞核へ移行して特定の遺伝子

          Wntの奇妙な支配

          豊富な毛包を持つヒト皮膚の生成

          CHIR99021刺激を受けた毛乳頭スフェロイドが毛包形成を促進する役割を示しました。  毛乳頭(DP)は毛包誘導を主導する重要な役割を果たしています。しかし、培養中に毛包誘導能力を失うことが課題となっており、培養されたDP細胞を用いて豊富なヒト毛包を生成することは難しいです。  DP細胞の毛包誘導能力を向上させるために、過去の研究ではWntシグナル伝達経路の活性化や三次元スフェロイド培養法が試みられてきました。ある研究ではDP細胞におけるWnt/β-カテニンシグナル伝達

          豊富な毛包を持つヒト皮膚の生成

          幹細胞の不可解な反応

          メラノサイト幹細胞の放射線感受性はその細胞の状態や周囲の環境に大きく影響されることが示唆されます。  体内の幹細胞は通常、休眠状態にあることで、細胞呼吸やDNA複製などの内因性ストレスを最小限に抑えています。しかし、X線などの放射線は、細胞のDNAに深刻な損傷を与える可能性があります。これまでの考え方では、放射線は増殖している細胞を標的にするとされてきました。  しかし、休眠状態にある幹細胞が放射線に特に敏感であることが示されました。特に、メラノサイト幹細胞は休眠状態にあ

          幹細胞の不可解な反応

          Col17a1: 髪の幹細胞の守護神か、それとも呪い

          このコラーゲンが髪の毛の幹細胞の自己再生に欠かせないことがわかりました。  幹細胞の住む場所や維持されるために必要なものについて、まだよくわかっていないことが多いです。  しかし、Col17a1と呼ばれるII 型膜貫通型コラーゲンがヒトの毛包幹細胞だけでなく、メラノサイト幹細胞(髪の毛の色を作る細胞のもと)の維持にも重要な役割を果たしていることがわかりました。  興味深いことにメラノサイト幹細胞は、この特別なコラーゲンを作る遺伝子を持っていないのに、なぜか髪の毛の幹細胞

          Col17a1: 髪の幹細胞の守護神か、それとも呪い

          白髪のパズル

          髪の背後にある科学は、研究者の興味をそそり続けています。    年齢を重ねると、白髪になることがあります。それは毛の根元にあるの色素が徐々に失われていく興味深いプロセスです。この自然現象の背後にある科学を掘り下げてみましょう。  若い頃の毛は髪に色をつける色素であるメラニンを生成する能力があります。実際、メラニンを生成する細胞であるメラノサイトは毛に色素をつけることができます。しかし、この驚くべき能力は加齢とともに低下します。  髪には成長のサイクルがあり、平均すると

          白髪のパズル

          なぜ髪の色は人それぞれ?

          毛髪の色は毛乳頭部のメラノサイトと呼ばれる細胞で作られる「メラニン色素」の量と種類によって決まります。  メラニンには「ユウメラニン」と「フェオメラニン」の2種類があります。この2つは生合成経路が異なるため、違う色を示します。例えば黒人の毛髪にはユウメラニンが多く、赤毛の人の毛髪には赤いフェオメラニンが多いです。  メラノサイトで作られたメラニン色素は、小胞体の一種である「メラノソーム」に包まれて保護されます。メラノソームは発達段階があり、完全に発達したメラノソームほど多

          なぜ髪の色は人それぞれ?

          白髪の原因はストレス?

          ストレスが原因で体のバランスが崩れ、白髪という形で現れるのかもしれません。  これまでも、ストレスが白髪の原因になるのではないかという俗説はありました。この研究ではそのメカニズムの一端が明らかになりました。  ある研究ではマウスを使った実験が行われ、急なストレスを与えると白髪が増えることが確かめられました。白髪の要因はさまざまありますが、毛の色をつくるメラノサイトという細胞が減ることで起こります。実験ではストレスでメラノサイトの元になる幹細胞が激減することがわかりました。

          白髪の原因はストレス?