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Hanakuso

電車のなかで、尋常ではないくらい鼻をほじっている少年がいた。

少年は、学ランを着ている。高校生だろうか。
いがぐり坊主に眼鏡、そしてたらこ唇。キャラも抜群にたっている。

座席に座り、手にもった本に視線をむけてはいるのだが、なにせ鼻をほじくるのに忙しく、内容に集中しているようにはとうてい見えない。

もしかしたら、ほじくる行為を本で隠そうとして失敗しているのだろうか。

いや、違った。

少年の右横に座っていたおばちゃんは、それまで少年からわざと目をそらしていたのだが、
思わず彼と目が合ってしまうと、あからさまに怪訝な表情を少年に送った。
が、しかし、少年の態度は一向に変わることはなく、ほじりはその後も続行されている。

次第にエスカレートしていくほじりに、今度は左横に座っていた小学生の女の子までもが気づいた。
鋭い目で少年を睨んでいるではないか。
女の子だったら小学3年生くらいになれば、この不潔極まりない行為をする人間を敵だとみなす。

また、車両には、なにやら話が盛り上がり、結構な音量でしゃべっている女子高校生たちもいる。

少年よ、自意識はどこへ行ってしまったのだ。

そう思いながら少年の方に再び目を向けると、手に持っている本のタイトルがふと目に入った。

東野圭吾の「悪意」。

吹き出しそうになった。

いや、めっちゃ悪意あるやん!と全力でツッコミたい。

実際には悪意などないことはわかっていたのだが、どうにかしてこの行動を理解したいと思っている自分がいる。

数週間が経ち、小説でも読もうかとしたとき、「東野圭吾の悪意」がパッと頭に浮かぶ。
少年の姿を懸命に払いのける私がいた。


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