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【小説】フィラフステ星人の逆襲《フィラフステ2》


1.擬態


 それは40年程前の話だ。地球から180万光年程離れたフィラフステ星から銀河系探索に打ち上げた無人ロケットが微弱な、しかし何かの信号とわかる電波を捉えた。地球の、日本からのアニメーション「帰宅後のステマ・まじか」プロモーション宇宙放送。

 フィラフステ星人は、その小さな銀河を探検するアニメに感動した。そして、秘密裏に日本海溝の底に遠征基地を作り、タコに近いDNAを利用した擬態シテスムにより人間に紛れ、アニメ業界に棲みつつ、感動するアニメーションを作る為にアニメーション制作会社「蝦山スタジオ」を運営していた。

 そして、ひょんなコトからフィラフステ星人は自分達をモデルにした初のオリジナル作品であるアニメーション映画「深海冒険マリンレスキュー」を作るコトとなったが、それは、地球人の心に届く、40年来のフィラフステ星人の夢をかなえた素晴らしい感動作となった。

 初公開後のスタッフによるインタビューの際に、擬態システムのトラブルで、タコ的な正体を現してしまったフィラフステ星人であったが、唯一の地球人声優、箱田雛の機転と「帰宅後のステマ・まじか」の箕輪監督、「蝦山スタジオ」を率いるフィラフステ星人の田沼監督、二人のスピーチにより観客、そして地球人に受け入れられるコトとなった。

 そして、箱田雛は声優学校からの恋人であったフィラフステ星人である今泉成人との子供を身籠っていた……。


 それからのフィラフステ星人達は大忙しだ。「宇宙人」というだけで世界中のマスコミが押しかけてくる。世界中の科学者から宇宙人マニア、どうみても素人の小説家までも各地で騒ぎ出す始末である。

 しかし、フィラフステ星日本海溝遠征基地の長の手腕が素晴らしく、会見については海外報道を主とする公益社団法人を介して行うコトとした。日本国には、フィラフステ星人から日本海溝周辺のレアメタルの位置が提示されたというゴシップ誌の報道もあったが、それは定かではない。

 他の国々は「日本国内だけの事象」であり、公益社団法人が中に入ったコトから無茶は出来なくなった。もっとも「フィラフステ星人は圧倒的な科学力がある」という話が前提にあり、脅威になっているのは間違いない。まあ、実際はフィラフステ星に兵器なぞありはしないが。

 アニメ業界に棲んでいたフィラフステ星人に「学歴等の詐称があった」という点と彼らの資産、現在の社会保障という部分についてどうするかの議論も発生した。

 学歴詐称という部分ではアニメ業界のルーズさから、あまり問題にならなかった。言えば上場企業の取締役、プロデューサーについては問題となったが、日本政府からの要請で不問になったケースのほうが多かった。

 資産という点においては、フィラフステ星人達の資産は地球人に擬態して行った、肉体労働から発したものであり。偽装紙幣などによる日本への資産影響は一切無かった。アニメ業界からそれなりの金銭を得るまでは、日雇の肉体労働等と母星からの食糧品の仕送りで耐えていたのである。今泉成人が声優学校に通いながら、交通量調査のアルバイトをしていたのもその為であった。世界中が涙した。社会保障は日本人同等となる見込みだ。


 とは言っても、「蝦山スタジオ」にも影響はあった。まず悲鳴を上げたのは、蝦山スタジオの制作進行であり、今泉成人の先輩にあたる間島時男であった。

 「運転免許証の停止は無いよな、ちゃんと教習所に通って、学科試験受かって手にしたのに。車の使えない制作進行なんて、鉛筆の持てない原画屋と同じだぜ。」

 「仕方ないでしょう。擬態システムが停止した理由が分からないんですから。運転中に擬態がとけてしまったら……。お坊さんの僧衣でも捕まる国ですよ。」

 今泉が返事をする。擬態システムのトラブル原因が不明なため、運転免許が停止されているのだ。作画スタッフに用紙を配り、画を集める制作進行は、公共交通機関か自転車で回るハメになった。

 間島は原画集めの帰り途中に今泉のマンションに寄って、同居している箱田雛が淹れる、冷たいアイスコーヒーを待っていたのであった。

 今泉と箱田はフィラフステ星人と地球人の初のハーフであるお腹の子について、危害のない研究については積極的に協力している。通院している大型病院にはフィラフステ星人の医師も陣取っていたが、安定期に入院するのは息苦しいため、今泉のマンションにいるのである。

 「おかしな話よね、地球の技術じゃ妨害出来ないんでしょ。」

 アイスコーヒーをちゃぶ台に置きながら箱田が言う。

 「そうなんだよ、体だけでなく服のデータも途切れたからね。」

 今泉が言う。

 「あれ、まっ裸だったの?ヤバイじゃん。」

 箱田がニヤつきながら言う。

 「俺たちは裸が正装なのよ、雛にゃん。見えて困るトコないし、所詮タコですし~。」

 間島が言う。フィラフステ星人は基本、裸族なのだ。なので擬態システムはやや複雑である。


 フィラフステ星人の擬態システムはタコに近いDNAを利用して行うが、それは生身の部分だけである。腕だか足だか判らない部分に擬態用ブレスレッドを着け、本人の体形を地球人化したデータをDNAに作用させて擬態する。そして擬態を保持するため、サーバーと常時通信している。

 服については別に通信しており、擬態していない時の服は風呂敷のような物に入る。服を着た状態から擬態を解くと、風呂敷を背負ったタコ的なフィラフステ星人になるのだ。服を脱いだ状態から擬態を解くと、服を脱いだ所に風呂敷包みが現れる。服を着た時は風呂敷はポケットに仕舞っておく。ハンカチ替わりにも使えて便利だね。もちろん擬態すれば瞬時に服を着た状態になる。

 それにしても、体と服の回線が両方遮断されるコトはありえない。地球人の技術でどうこうは出来ないし、当初は太陽風の影響かと思われたが、擬態システムの運用データにもおかしなデータは残っていなかった。

 「他に宇宙人が来てたりしてね、貴方たちと同じように『帰宅後のステマ・まじか』の宇宙放送を観て。先にオリジナル作品を成功されて、やっかんで擬態システム妨害していたりして。」

 「やっかんでって?」

 今泉が箱田に聞く。今泉には聞いたコトが無い言葉だ。

 「あら、平和好きなフィラフステ星人は知らない言葉かしら。やっかむ=ねたむってコトね。羨ましくて悔しいコト。」

 「ああ、雛ちゃんが声優オーディションに落ちまくってたトキのアレか。」

 箱田の頬がぷくりと膨れる。これは子供の胎教に悪いと間島が話を戻す。

 「案外あり得るかもなぁ。今泉、ちょっと長のトコに行かないか?別の宇宙人の妨害って話はフィラフステ星人は誰も考えてないと思うぜ。」

 「ですね、擬態システム使っている宇宙人とか調べましょう。」

 アイスコーヒーを慌てて飲み干し、間島と今泉は水を媒体とした転送システムで日本海溝遠征基地へと向かった。



2.潜入


「おお、今期はまるで『帰宅後のステマ・まじか』の血統のような宇宙少女ものだ、素晴らしい!ビューティフル!!」

 日本海溝遠征基地ではモニターの前で長が絶叫していた。ヘッドホンで聞いていた為、間島と今泉の入室には気づかずに新番組の魔法少女アニメにご満悦だった。間島が長の肩を叩く。

 「長、ご熱心のところ誠にすみません。」

 長はモニターの電源を落とし、ゴホンと咳払いしてモニターを背にした席に座る。

 「何用かね、制作進行16号と声優8号。」

 最近は間島くん、今泉くんなどと地球人名で呼んでいた長が、業務名で呼ぶあたりに焦りが感じられる。

 間島と今泉は長に箱田の推測を話した。長は技術者と他星に詳しい基地の所員を集めた。

 「擬態システムを知っていれば逆位相信号でキャンセルは可能です。」

 擬態システムの管理技術者が言う。

 「擬態システムを……。オレメカン星人かペカルティア星人ですかねぇ。両方とも友好的な民ですが。」

 宇宙生命に詳しい所員が言う。

 「それにしてもドコにいるか分かりますかね?それ。相手の擬態をキャンセルする装置くらいすぐに用意しますが。」

擬態システムの管理技術者が言う。

 「最近、オリジナルアニメでコケた作品で、4DCGSみたいな地球外技術を使っている作品とか探せないですかねぇ?」

 今泉が言う。4DCGSとは、フィラフステ星人が監督と演出家の脳から直接3DCG映像を作り出す、地球には存在しない技術だ。

 「オリジナルで大ゴケした作品、ちょっとスタジオでチェックしてみるわ。」

 間島が言った。この日はこれで解散となった。


間島をはじめ、蝦山スタジオの面々は、ここ数年のオリジナル作品の失敗作と言われるものを見直した。

 アニメスタジオというものは開業も倒産も多い。プロデューサーか制作進行が不平不満のある作画班を引き抜いて独立するが、コケたり、成功しても質の維持が出来なかったり、親会社の意向で解散したり。知り合いからの下請け、原作アリの元受けの後に、自社オリジナルを作る。それが生き残った印のようなものである。

 もちろんそこで失敗作となってしまうと、お金と放送枠を取ってきた映画会社とかTV局、商品化するおもちゃとかゲームの会社、最近有力なスポンサーとなりつつあるパチンコ系の会社などの製作委員会に見捨てられて、大概は下請け会社に逆戻り、最悪倒産となる。

 オリジナルは、ほとんどが失敗する。よほど作画とか演出に定評が無いとお客さんにすぐに切られる。昔は3話くらいまで見てくれたお客さんも、シーズン50作を超える現状では1話見てくれるのすら難しい。蝦山スタジオのように初オリジナルを映画で成功する確率なぞ数年に1本の確率であり、40年来のフィラフステ星人の努力の賜物だったのだ。

 「ここのクオリティは凄いんだよなぁ。こんな高級なレンダリングするシーンでは無いと思うんだけど。こんなシナリオと演出じゃなきゃ大化けしたのになぁ。」

 3DCG班のリーダーであるオレンジ色のタコ的……村中史郎が一緒に休憩室のモニターを覗き込んでいた間島に言う。それは2年ほど前に3DCGの良さで躍進した新進の制作会社、「ポリゴノドン」の作品だった。

 「メタモルフォーゼ1818」と言うその作品は、変形しまくるメカ18台が合体するロボットモノだったが、メカも登場人物も多すぎて混乱した。ストーリーもメインキャラを集めた博士が最後に自爆して終わり、「博士だけで良かったじゃん」と不評になった。難解な変形ギミックを持つおもちゃは、18台集めるには高価で売れるハズもなく、パチンコ台にいたっては博士の自爆シーンの大当たり動画が発表されただけで、実機が作られるコトは無かった。


 「とりあえず、3DCG下請けのお願いと称してポリゴノドンに行っていいですかね。」

 新作のコンテを描いていた蝦山スタジオ代表兼任監督の田沼に間島が言う。間島は運転免許証の停止を解いて欲しくて必死なのだ。ポリゴノドンまでは電車で20分程度、数作品だが、蝦山スタジオからも下請けを頼んだコトもあり、間島もポリゴノドンの社長に面識があった。

 「いや、私も行こう。長からオレメカン星人とペカルティア星人の擬態キャンセラーが届いたんだ。コンテもちょっと煮詰まってて。」

 田沼が机の引き出しから、車のリモコンキーのような機械を取り出して、間島に渡した。擬態システムの管理技術者が作ったもので、2つのボタンでオレメカン星人とペカルティア星人の擬態をキャンセルできるものだ。

 「いや~、社長の2話のコンテも……いや、じゃあ2人で行きますか。」

 間島が電話でポリゴノドンにアポイントを取った。

 ワイシャツに緑色のネクタイを締めた間島と茶色のポロシャツを着た田沼は、電車に揺られてスタジオポリゴノドンの入っているビルに向かった。

 「どうも~田沼社長、間島さん。いやあ、びっくりしましたよ。まさかお二人が宇宙人だったとは。」

 3DCGの作画スタッフの机が並ぶ奥の打ち合わせブースで、ポリゴノドンの北村社長が言う。田沼と間島が顔を見合わせる。間島は映画公開時のステージに上がっていないのでフィラフステ星人とは確認されていないハズなのだ。

 「まあ、そんなものなんですが、これからもお取引願いたいと思いまして。で、実は今準備中の……。」

 田沼がそこまで言ったところで間島が鞄の中の資料を探すフリをしながら擬態キャンセラーのボタンを押す。1つめのボタンは反応無し、2つ目を押した時!

 「ピキィ!」

 妙な叫びをあげて、北村社長とが巾着袋を首……耳からぶら下げた半透明のイカ的な宇宙人に変身した。ポリゴノドンのスタッフたちもである!



3.逆襲


間島がボタンから手を離すと皆が地球人の姿に戻った。

 「あなたたちはペカルティア星人だったんですね。」

 田沼が北村社長に言う。ポリゴノドンのスタッフ8人程がすこしスネた顔で打ち合わせブースを囲んでいた。

 「40年前に『帰宅後のステマ・まじか』の宇宙放送の電波を捉えたのはあなたたちだけでは無かった。我々ペカルティア星人もあれを見て、苦労してポリゴノドンを作りました。」

 北村社長がしんみりと話す。友好的なペカルティア星人は田沼と間島に手を出すような宇宙人ではなかった。

 「我々も必死で手書きの作画を勉強しましたが、作画監督まで上がれる者はいませんでした。しかし、最近は日本のアニメーションも3DCG作品が多くなり、これならばと3DCGにシフトしました。我々ならば地球の数倍の速さで処理できますし。」

 机上のPCの中身はペカルティア星の機器が詰め込まれているのだろうと間島は思った。田沼は北村社長が「作画監督まで上がれる者は」と言った時のポリゴノドンのスタッフ達の悔しそうな顔を見逃さなかった。

 「公開会見の時に、私たちの擬態をといたのも貴方たちだったのですね。」

 田沼が聞く。

 「40年前のアニメの電波を宇宙人が、という設定を聞いた時に、まさか?という疑念を持ちました。そして、間島さんがここに来られた時に擬態信号を傍受してしまったのです。」

 「俺が、ああ、確かに企画発表の後にも3DCGデータのお願いに来ましたが。」

 「それで、何故かこう、変な気持ちになったのです。映画館に擬態をキャンセルする機械を持ち込んでしまい、ウチの『メタモルフォーゼ1818』と真逆の評価を目の当たりにして、そして。」

 「地球人で言う、やっかむ、とか、ねたむ、と言う気持ちだそうです。」

 間島が箱田に聞いた話をする。フィラフステ星人もペカルティア星人も知らなかった感情。


  「私どももですが、擬態のキャンセラーを使うのを辞めてください。それとその事実を日本国に報告しないと、特にこの間島が車を使えず、制作進行に難があるのです。」

 田沼は言う。ポリゴノドンのスタッフの話に聞き耳を立てると、運転免許の停止のコトは知らなかったようだ。

 「はい。ですが、私たちの正体は……。」

 「皆さんが望まないならペカルティア星人の名は出してもスタジオ名とか、貴方たちの地球名を出す必要はないでしょう。ウチの長が上手く対応してくれます。」

 田沼が言う。普段はあんな魔法少女アニメの虜である長だが、ここ一番の交渉力はある。

 「では、私たちはどうすればこの非礼を……。」

 「お返しを、と言ってはなんですが、間島の、私どもの仕事を手伝ってはくれませんか?いえ、もちろん製作費はお支払いいたします。蝦山スタジオは手書きスタッフは充実していますが、3DCGは人手不足なのです。」


 田沼の話を聞き、間島はフィラフステ星人の監督・演出たちが悲鳴を上げてる姿を思い起こした。フィラフステ星人の4DCGという作画システムは監督・演出たちの脳に針を刺して信号を得るため、とても痛みを伴う。3DCGのスタッフの増員は間島がずっと田沼に上申していた話であり、安定した外注先が出来れば、それは素晴らしい話だ。

 「ポリゴノドンの名声もすぐに戻るでしょう。貴方たちの3DCGはウチの担当も見事と褒めています。次にオリジナルを作るときにはフィラフステ星人のプロデューサーたちも手伝えると思いますよ。40年前に『帰宅後のステマ・まじか』の信号を受けてここまで来た同士なのですから。」

 さらに田沼が言う。

 「そして、いつかオリジナルが成功したら、その時はペカルティア星人と正体を明かす、そういうコトにしませんか?それを我々の条件とします。」

 北村社長は泣きながら立ち上がり、田沼と間島に握手を求めた。田沼と間島も立ち上がって握手する。WIN-WINの関係が出来るように俺も頑張らないと、と間島は思った。ポリゴノドンのスタッフも涙を流して頭を下げている……一人の女の子を除いて。

 その女の子は後ろ手に何かを隠して二人のほうに近づいてきた。

 「田沼監督、サイン、お願いします。」

 女の子が差し出したのはマジックと色紙だった。聞けば田沼の作画監督時代からのフアンだったという。

 「大切にして下さい、これがフィラフステ星人とペカルティア星人の契約書です。」

 田沼はそう言って、さらっとイラスト付きのサインを描いて彼女に渡した。彼女は何度も何度も頭を下げた。



4.誕生


   数か月後、フィラフステ星人の運転免許の停止が解けた。その数日後、間島は車をやや速めの安全運転で走らせる。

 「いやあ、間に合って良かったよ。今日の為に免許を取り戻したんだから。」

 「別に俺はタクシーでも……。」

 今泉が申し訳けなさそうに間島に言う。

 「うるせえ、俺も一緒に見させてくれよ。」

 20分程走って、車は大型病院の駐車場に入る。ガードマンが駐車スペースを開けていてくれた。車を止めるとガードマンに一礼し、速足で病院内に飛び込む。消毒薬に手を浸し、エレベーターで3階に上がりながら二人はマスクを装着する。

 「来た来た、待ってますよ!」

 エレベーターを降りると、顔なじみの女医が声をかけてくる。2人は女医について病室に入る。ベッドに寝ていた箱田がニコりと笑いながら、横の赤ん坊に視線を向けて言う。

 「2800gの女の子。」

 「よおし、ありがとう!、生まれてきてくれて、ありがとう!」

 涙をあふれさせた今泉が自分の娘を撫でながら言う。間島も涙を流して拍手したが、女医の咳払いでここが院内だと思い出し、手を止めた。


「名前を考えないと。」

 間島が言うと、箱田が答える。

 「もう決めてるの。亡くなった私のお祖母ちゃんの名前を貰うの、繭。」

 「そう、今泉繭。日本国とのルールがまだ決まっていなくて籍が入れられないから、まだ箱田繭かな?」

 今泉が言う。なにせ初のフィラフステ星人と地球人のハーフなのだ。

 「で、どうでした?」

 今泉が涙を拭きながら、真顔で女医に聞く。

 「すぐに鑑定したけれど、DNAは……ほぼ地球人、雛さんそっくりの。いやぁ、ウチの擬態システムって素晴らしいわ。」

 女医もフィラフステ星人である。フィラフステ星のDNA解析機にデータを送って、どんなハーフなのかを確認した。もちろんその行為は今泉も箱田も了承している。

 「ほぼって言うと?」

 間島が女医に聞く。

 「この子、見た目は日本人の女の子だけど……擬態システムが使える気がするの。擬態のDNAがあるの。詳しくは大きくならないとわからないけど。これはご両親の了承を取ってだけど、シークレットにしたほうが良いかもしれないわね。」

 女医が言う。確かに、これからこの子が育っていく中では一般には公開しない方が良いかもしれない。

 「魔法少女か~、血は争えないわね。」

 箱田が娘を観ながら笑って言う。

 「雛にゃん、魔法少女なの?」

 間島がバカにしたような顔をして言う。いや、それを言うなら間島は擬態できる魔法おっさんなのだけれど。

 「ママは、魔法少女も出来る声優になりたかっただけですよ。ねぇ~繭ちゃん!」

 箱田は間島の顔を観ずに娘に語り掛ける。眠そうだった赤ん坊の顔が、急に笑顔になり、笑いはじめた。地球とフィラフステ星の大きな一歩、そして新たなる物語のはじまりの笑顔だった。


~fin~  

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