見出し画像

「解体屋ゲン」88巻その 2。ゲンvsサイバーテロ、日本を救う海上対決編!

・はじめに


解体屋ゲンの88巻については以前記事を書いた。

ただし、後半のテロ自体についてはネタバレ回避のために、テロリストとの戦いが始まる中盤以降については記述を抑えた。

しかし、最近の記事に、もっと書いたほうが良いとの天の声か悪魔のささやきがわからないものが聞こえて来たり(ゲン聴?)、(株)インプレスの「やじうまWatch」でとり上げられるなど88巻の注目度が上がっているため、ネタバレ回避していたサイバーテロに部分について新規記事として作成した。

なお、テロリストの目的決定前までについては一応あらすじに記載するが、上記の大活劇記事も参考にして欲しい。


・あらすじ


「ひとりの男のちょっとしたスキを狙われたのか、大手ゼネコン住菱建設のホストコンピューターにハッカーが侵入した形跡があった。住菱研究所に勤めるゲンの仲間、谷は二足歩行重機タキジロウが「背中が痒い」と言い出したためにハッキングの不安を感じるようになり、不安を晴らすためにサイバーディフェンス研究所(以下CDI)に助けを求める。

画像1

そんな回路はないのだが。


CDIの佐藤と林と合った谷とゲンは、そのハッキング技術と住菱のネットワークの脆弱性に驚く。

画像8

あっさりとハッキングされた。これは谷もどうかと思うが……。


しかし住菱研究所も住菱建設自体も、谷の不安になかなか対応しない。大企業病にともいえる状態では確証も無く、いつ発生するかわからない事案には対応出来ないのだ。

画像3

日本の管理職。


谷とCDIは強引に調査を進める。谷はゲンに神経経路再現スーツを着せて、ウイルスの侵入経路再現して探す。タキジロウの痒さを再現するスーツに悶えるゲン。

画像7

ルパン三世の第一話の……不二子ちゃん?


一方、CDIでは事業推進部の部長である佐藤と情報分析部の大徳によって対策チームを組む。ハッキング責任者の林、主任分析官の堀越、分析官の新穂と中島によるチームにより住菱スーパーコンピューターII(以後SH-IIの解析を行い堀越がハッキングによりSHーIIのマスターノードを掌握し、マルウェアを発見、解析した。

画像2

SH-IIが……セガサターンのCPUが……(違)


ただし、腰の重い大企業の住菱グループ。谷とCDIはワザとわかりやすいハッキングを住菱の系列企業で発生させて住菱グループを動かす。

画像4

誰もがわかる納得のハッキング。


住菱技術研究所に立ち入れるようになったCDIは大徳と中島を派遣して解析システムMONSTROを稼働、だが解析中にタキジロウを介してテロリストがメッセージを送ってきた。IPアドレスから犯人が近くにいると分かり、愛用のロードで追う新穂だが……。

画像5

自転車が趣味のためにこれから大変な目に。


解析の中で中島はテロリストに埋め込まれたコードが「実際に」イランの核施設を襲ったワーム、Stuxnetに似せているコトに気づく。そして谷と神経経路再現スーツで悶えまくったゲンによって、テロリストの目標が……。

画像9

恐るべきサイバーテロは「現実の出来事」。


谷はテロリストの目標をメタンハイドレート生産プロジェクトと判断した。日米首脳会談に合わせて資源採掘船『ほうぶん』のドリル制御を乗っ取り、掘削中の海底メタンハイドレートを爆発させ、大規模な海洋汚染とそれによる世界中からの非難を起こすためなのではないかと。

画像10

「ほうぶん」炎上……まさかあの炎上を?


画像11

責任は個人にはないと思うが、だがしかし。


CDIは紙のマニュアルからテロリストの狙ったコードを探す。その中でドリル制御はテロリストのブラフであり、真の目的は液体制御関係だったと判明する。だがこの状況でも『ほうぶん』の稼働停止をしない住菱グループ。ゲンと谷はC4、プラスチック爆弾で『ほうぶん』の電気系爆破を企てる。

画像12

ソフトはCDIに任せてハードウェアはゲン、いや谷が爆破…。


画像13

テロリストがいなかったら、テロの目的が違ったら谷は爆弾魔として収監。


CDIの調査から、薬液ポンプにより液体爆弾を移送してメタンハイドレートを爆破するのがテロリストの本命と爆破のプロとして判断したゲン。

画像14

爆破のプロのゲンが想像するテロの爆弾。これを着火装置として


画像15

メタンハイドレートの大爆発!日本の運命は。


だが、そうであれば、現在その作業が可能なのは『ほうぶん』ではなく、別の作業をしている採掘船『きらり』。ならば採掘船『きらり』の内部には液体爆弾を仕込むテロリストも乗船しているハズ!

画像16

テロリストと白兵戦の覚悟も。


ゲンは谷とCDIの新穂と共にヘリで採掘船『きらり』に向かう。CDIでは若手が慣れない制御用プログラム言語に対し、昔アセンブリ言語を扱っていた社長の廣中やベテランも投入して強制停止プログラムの作成を開始する。

画像18

ゲンが向かうのは採掘船『きらり』。新人を採掘するのはきらら。


画像16

いかに簡単なプログラムで効果的にテロを防止できるか。時間との戦い。


テロリストのコードを破る強制停止プログラムとC4による動力盤爆破の二段がまえで爆破を止めようとするゲンたちだが、テロリストたちの実力はゲンたちの予想を超えていた。その正体は、そしてゲンたちは止められるのか、日本を救えるのか……。」

画像17

ゲンたちはテロリストに屈するのか?!


・感想


序盤から中盤の感想、実在企業であるCDIの作内への登場についての感想は前回記事を参考にしていただきたい。


上記のあらすじのように、中盤からはメタンハイドレートを爆破という国家を揺るがす大規模なテロ災害を止める話へと移行する。

日本を救うために、人生を投げ捨てる覚悟で採掘船『きらり』に向かうゲンと谷。巻き込まれた大事件に全ての能力を投入するCDIを描くそれは、まさに映画並みのスケール。

ハンマーによる解体や水道管の手掘り工事から高層ビルの爆破解体まで幅広く行うゲンであるが、その一方でテロリストとも何度も戦っている。ドーム球場や東京駅を狙った爆破テロや産油国のパイプラインの爆破テロ対策などだ。

美少女ゲームから異世界からテロリストから女房まで、なんでも戦うゲン。

そして、その中にしっかりした取材からリアリティを描き出すマンガの妙。原作者と作画が組み合ったドライブ感は素晴らしい。


テロリストのハッカーと戦うCDIのホワイトハッカーたち。その仕事の細かい内容までは知らないが、多分ハッカーの戦いの流れはここに描かれているとおりなのだろう。調査するシステムの脆弱性の発見と専用ソフトによるハッキングの分析、システムのコードチェック、紙のマニュアルのチェック。

PDF化されていないものもまだ多いだろうし、プログラムだけでなくその仕様はマニュアルから得る必要があるのだろう。

そして、その調査から危険なマルウェアを発見し、運用に影響がないように削除し、脆弱性をつぶして行く。


いっぽう採掘船『きらり』の制御話については個人的にちょっとそんなコトもしていたためリアルさがとても伝わった。

今でこそ制御用シーケンサーでもC言語以降の新しい言語を使えるが、ちょっと前までの制御シーケンスの作成は、電気回路が読めれば運用者側でも内容を読める、配線を模した図でシーケンスを組むラダー、ラダーと相互に変換出来て単語と数値を並べてプログラム言語として記述するニーモニックだけが作成手段だった。

若い所員たちの前で社長やベテランが「30年前に書いたアセンブリにそっくり」と打ち込んでいる停止プログラムはPCのアセンブリ言語(=ニーモニック)に似ている制御用シーケンサーのニーモニックなんだろうなと解る。

画像19

もうアセンブラを書く人なんてCOBOLやFORTRAN並みに……いやいや。


とてもリアルだが、そこまで解る人いるのか……とも思いつつも、社長の活躍にはいいネタだったし、読者にどんな「プロだけにー」な人が紛れているかわからないのが解体屋ゲンなので、つくづく原作者は大変だと思うのだ。

もちろんそれが伝わるように描く作画も。今回は船とか船内の動力盤とか、さらには実在の人物の似顔絵でなんとも大変な仕事に。


でも、この社会派マンガは建設業から離れても現実に沿った話にするしかないのだ。現実の人たちをテロリストと戦わせているのだし。あ、いや異世界とかは別だけど!

そして話は採掘船『きらり』の中での攻防に突入する。爆破のプロとして爆破を爆破で止めようとするゲン、なんとか制御で止めようとするCDIは日本の危機を止められるのか。


どうせなら国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)とのタイアップで地球深部探査船「ちきゅう」や深海巡航探査機「うらしま」がゴリゴリと出て活躍する、ドラマも特撮もしっかりした大巨編として映画化されないかな……と心底思う傑作巻である。




この記事が参加している募集

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?