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「高尾の天狗とミドリの平日」コロナ禍の創作と現実その2。


・はじめに


4コママンガ雑誌の王道を走って来た「まんがライフ」が2022年9月号で休刊になると発表された。

ぼのぼの、新フリテンくん、動物のおしゃべり♥、奥さまはアイドル♥、スパロウズホテル、リコーダーとランドセル、めんつゆひとり飯……事実上統合されていた「まんがくらぶ」の人気作も含めて、強固なラインナップかと思っていた雑誌だが……。

「まんがライフ GIGA」閉鎖の後に電子書籍としてのフォローが無かったからな気もしたりするが、もうしょうがない。

そんな休刊と共に、以前書いた『猛暑と新コロナに負けないために!「この山マンガを読め」』という記事の中でとりあげたマンガ、正確には続編が終了するとのコトである。

「高尾の天狗とミドリの平日」。コロナ過によってマンガが変わった、でも変わらなかった稀有な、そして大切なマンガとなる作品である。



・高尾の天狗とミドリの平日


「デザイン会社に勤務する女の子、三国(みくに)ミドリは25歳。断れない性格で『仏のミドリ』と同僚に呼ばれ、多々の仕事を引き受けてしまい、心身とも疲れていた。

ある日、ミドリは同僚に誘われた高尾山にある『高尾ビアマウント』での合コンをドタキャンされる。そんな状況だが料理につられ、おひとり様の高尾ビアマウントを楽しもうとするミドリ。その前に現れたのは、高尾山に住む天狗の子、聖であった。

そう、前作「高尾の天狗と脱・ハイヒール」にて、フラれた勢いでハイヒールのまま高尾山を登ろうとした主人公、ワガママ三十路OLノリコを立派な高尾山ライフな(通い)住人に仕上げた、あの聖である。

聖は弱ったミドリを山頂に招き、溜まった思いを叫ばせる。

そしてミドリの高尾山通いが始まる。聖、聖の父で烏天狗の幽山、聖の修行仲間のタヌキとカラス、他の山の天狗、他の人には見えない仲間たちによってミドリは心身を……いや、立派な高尾山ライフな(通い)住人への道がスタートしたのだ!

ミドリよ登れ、高尾山を!!そして飲んで食べて温泉だ!!」


・襲ってきたコロナ禍、その分岐点での判断


主人公と読者の心身の疲れを癒す、高尾山観光案内ファンタジー。氷堂リョージ先生(女性)による高尾山の天狗シリーズは「高尾の天狗と脱・ハイヒール」1巻のあとがきに「高尾山だけで1年半ネタが持ちました!!!」と書いてあったのに、結局9年のロングラン!

本当に先生も編集部も、そして読者も高尾山の天狗に化かされているのでは?などと思ったり。いや、もちろんしっかりと面白いのだが。

そんな中「高尾の天狗とミドリの平日」第10話(2巻1話)についたサブタイトルは「今は来ないで!」

「コロナ過でミドリのデザイン会社はリモートワークへ。旅行系の仕事が消え、通販などのWebデザインの仕事が増える。実家とも疎遠となり、心を癒す高尾山への足も遠のく。高尾山のある八王子でも『今はお越しにならないようにお願いします』……」

このマンガは高尾山観光案内ファンタジーなのだ。行けない観光地をどうネタにするのか。時系列をアレやコレやしてコロナ過を描かない?休止して一時は別のネタの連載にシフトして様子を見る……?

だが、この分岐点で氷堂リョージ先生とまんがライフ編集部が選んだのは「真正面からコロナ禍のOLとコロナ禍の観光地である高尾山を描く」コト。このため10話以降、2巻以降の「高尾の天狗とミドリの平日」は常にコロナ禍との戦いを描き、コロナ禍の高尾山を描くマンガになったのである。


・描かれるコロナ禍


聖は奈良時代に捨てられて、カラス天狗の元で天狗となった身だったという設定があった。ここに天平の疫病大流行(天然痘)から……という設定が追加されたのは元々の狙いだったのか、コロナ禍でとって付けたのかはわからないが、その強烈な設定をさらりと扱う上手さ。

だが、そんな設定の聖が言う。

「しかしミドリも数多くの流行り病を生き抜いて来た民の子孫なのじゃ!」

言われてみればそのとおりで、昔から疫病の大流行は何度もあり、それを人間は生き抜いているのである。日常ではないが「またやってきた」禍ではあるのだ。

※ 疫病は地球文明のレベルに合わせて襲ってくるのかもしれない……。

しばらく我慢してから、平日早朝などの空いている時間に高尾山に戻るミドリ。食事や人通りに合わせてマスクを頻繁につけたり外したりするミドリ。高尾山の交通機関・観光施設のコロナ対策は、もちろん当時の現実の対策を描き、作者の関係者へのリモートインタビュー記事のおまけマンガでも補完された。

在宅ワーク中心となったため、事務所縮小のため引っ越すミドリの会社。二度目のワクチン接種の副反応で高熱に倒れるミドリ。創作の天狗たちも状況で各山の連携を強くする対策を……。


・おわりに


でも、変わっても変わらなかった。高尾山の楽しみ方を描くコトは。コロナ禍の対策の中で高尾山を楽しむ方法がミドリを通して描かれる。感染対策に気を使いつつ、今できる高尾山の観光を能動的かつ無理なく楽しむミドリ。とろろも自然薯もそばも、あれやこれやの食道楽と共に。

作者のツイートでは最終巻となる4巻はしっかり発売されそうなので、おまけやあとがきにも期待したい。ラストの展開自体は心配いらない。「高尾の天狗と脱・ハイヒール」をハラハラさせた展開にして、なお綺麗に落とした氷堂リョージ先生なのだ。

ともかく、コロナ禍の観光地を描いた「高尾の天狗とミドリの平日」はコロナ禍をそのまま受け止めたマンガとして後の世に残すべきマンガになっていると思う。

出来ればもう少し、コロナ禍が薄まるまで観たかったが。でも氷堂リョージ先生の新作を楽しみに待ちたい。


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