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【小説】フィラフステ星人の受難《フィラフステ1》


1.発覚



 「...というワケで今後の君の報告を期待する。既に潜入している先輩にもよろしく。」

 流暢な日本語による指令は終わった。地球のパソコンと変わらないように改造した通信・モニターから上司の姿が消え、自分も地球人に擬態する。

 「なに、今泉クンってタコなの?フィラフステ星人って宇宙人?」

 空いたドアから部屋に入ってきた酔っ払い女の箱田雛が矢継ぎ早に質問してきた。

  (しまった、発覚した。俺、今泉成人がフィラフステ星人だと。)

 終電過ぎまで飲み、潰れたのでもう起きないだろうと居間ソファーに箱田を寝せたまま定時報告をしていた今泉だが、良い報告に浮かれドアを開けられたのに気づかなかったのだ。

 「いやぁ、俺、タコに見えた?ホントに?やるじゃん俺!」

 「は、何言っているのよ、紫色のヌメっとしたタコ的にキモイのがアンタになったの見たのよ。ここまで声優として立派に…とか聞こえたから、田舎に電話してるマザコンかと思ったら、ドア開けたら紫のタコがピンクのタコ相手に自慢してて。」

 「え、演技の練習だよ、受かったんだよ、深海冒険マリンレスキューって映画の宇宙蛸人の探査員B役に!そうか、タコに見える程の演技が出来るとは。」


 「それは昨日オーディションに落ちたアタシへの自慢?ふざけんなタコ、アンタの演技で人間がタコに見えるかっちゅーの。そりゃ、私よりは全然上手いけど!」

 「いや、俺の演技力に加え、あなたが麦焼酎を2本とワイン4本空にしたからでしょ。だいたいオーディションに落ちた残念会で言えないじゃん、俺は受かったぜ…とか。」

 箱田がそこそこ美人な顔を、最大限に怖くして怒り出す。二人は夜間声優学校に通っていた。箱田はOL、今泉は交通量調査のアルバイトをしながら夢へ向かっていたのだ。いや、今泉は任務と…。

 「だいたい、学校のオーディション掲示板にもネット情報でも、深海冒険マリンレスキューなんて番組見たコトないわよ。私に隠して裏ルートでも知ってた?いや…ドコのオッサンさんと…。」

 「先輩に蝦山スタジオで制作進行している人がいて、そこのオリジナル…隠すつもりはなかったんだ、スマン!」

 (なにか、フィラフステ星の調査員とかどうでもいい方向に進んできた。いいぞ、この勢いでなんとかゴマかさないと…)

と、今泉が思った瞬間、箱田が言い出す。

 「わかった、タコじゃない!って言うのなら…私に役をください。この際、アンタが今泉クンでもタコでも良い、私にも役をください!ガヤとかじゃなくてエンディングのテロップにしっかり名前が流れる役をください!」

 ガヤとはその他大勢…ともかく号泣する箱田を誤魔化すには、もう深海冒険マリンレスキューというアニメに箱田を出すか、箱田を殺すしかフィラフステ星人の秘密を守る方法はない。そして、もちろん箱田を殺すという選択肢は今泉にはない。フィラフステ星人は平和を好む、そして今泉は箱田を…。

 「先輩に話してみるよ、少しだけ待ってくれ!」

 箱田にそう言って、今泉は覚悟を決めた…。



2.野望


 それは40年程前の話だ。地球から180万光年程離れたフィラフステ星から銀河系探索に打ち上げた無人ロケットが微弱な、しかし何かの信号とわかる電波を捉えたのだ。フィラフステ星人の科学者が解析をした結果、それは2次元星人の記録だった。そして、その小さな銀河を探検する2次元星人の話は平和を好むフィラフステ星人の心に大きく響いた。

 第704太陽系第3惑星に2次元星人がいると突き止めたフィラフステ星人は、無人観察艇を多数派遣した(それは地球ではUFOと呼ばれたらしい)。しかし、そこに居たのは乏しい科学の中で粗暴に生活する3次元星人の姿だったのである。

 フィラフステ星人は大きく失望したが、同時にその惑星の日本という所から最初の電波が流されたコトを知った。当時流行って映画化された「帰宅後のステマ・まじか」という作品のプロモーションとして、大型アンテナから宇宙に電波を発信していたのだ。

 日本のアニメーションには粗暴な物もあったが、中にはフィラフステ星人が涙する作品も多数存在した。そしてフィラフステ星人たちは日本海溝の底に遠征基地を作り、タコに近いDNAを利用した擬態シテスムにより人間に紛れ、感動するアニメーションを作る為の調査員を各所に送り込んだ。

 その中の一人が声優学校の調査員である今泉成人であり、先行して地球に降りていた調査員たちが大変な苦労を重ねて作ったのが、アニメーション制作会社「蝦山スタジオ」なのである


日本海溝の底の遠征基地にカラフルなタコ…もといフィラフステ星人が集まった。

 「皆、忙しい中ご苦労である。今回は声優学校調査員3号による発覚事故を隠密に処理する手立てを考えたい。」

 金色っぽいタコ…もといフィラフステ星人が話す。彼こそがフィラフステ星日本海溝遠征基地、150名を超える調査員の長なのだ。

 「声優ゴッコで終わらせるとか、記憶操作とかではダメなんですかねぇ。」

 緑色っぽいタコ…もといフィラフステ星人が言う。彼が蝦山スタジオで制作進行をしている先輩こと制作進行調査員16号である。制作進行調査員は激務のために既に14名がフィラフステ星に帰還している。

 「ゴッコでは一時的な効果しかないだろう。フィラフステ星の宇宙憲章で別惑星の住人の記憶操作は重犯罪者のみだ。処罰するなら声優学校調査員3号とその監視役である声優調査長1号であろう。」

 金色っぽいタコ…もといフィラフステ星人の長が言う。桃色っぽいタコ…もといフィラフステ星人声優調査長1号という肩書の上司が軽く震える。紫色…仮名、今泉成人は会の当初から顔色が青いのだが、もとから紫なのであまり変わらない。

 なお、フィラフステ星日本海溝遠征基地では全て日本語での会話が儀礼となっている。長が魔法少女アニメを観すぎて、既にフィラフステ星語をすっかり忘れているとの噂もなくはない。


 「ついに我々の野望を果たす時が来たのではありませんか、長。オリジナル長編映画。タイトルが現代ではウケそうにないですが、我々が日本人に融和するための先駆けとして皆で頑張る時が来たのですよ、もう体制はほぼ整っています。やりましょう、いや、やりますよ、長!」

 茶色っぽいタコ…もといフィラフステ星人が蝦山スタジオ代表の代表取締役調査員2号である。ちなみに代表取締役調査員1号の、銀色っぽいタコ…もといフィラフステ星人は映画会社の取締役の席におり多忙で今日は来ていない。映画会社で活動しているプロデューサー調査員には既に数多くの映画やテレビアニメに関わっている者も少なくない。もちろん蝦山スタジオもオリジナルが無いだけで数多くのアニメーションの元受けの実績を作っていたのである。

 「そうかもしれんな。皆、どうだろうか?この若者の失敗を、我々の、フィラフステ星人の野望の印として歴史に刻み込むコトに反論はあるかね?なければ皆の拍手を持ってオリジナル長編映画『深海冒険マリンレスキュー』の制作を本件解決策として決議としたい。」


 カラフルなタコ…もといフィラフステ星人たちがいつの間にか地球人に擬態して拍手をする。

 金色っぽいタコ…もといフィラフステ星人は長い白髪の魔法使いのような姿に。

 茶色っぽいタコ…もといフィラフステ星人は狸体形のスーツ姿の中年に。

 緑色っぽいタコ…もといフィラフステ星人は白シャツネクタイに顎ヒゲのキザな男に。

 桃色っぽいタコ…もといフィラフステ星人は細いメガネにスーツな女性に。

 紫色っぽいタコ…もといフィラフステ星人はフード付きトレーナー姿の今泉成人に。

 そして、野望に向けて、おのおのスケジュール調整に向かうのであった。水を媒体とする謎の転送システムで。



3.激闘


まず悲鳴を上げたのは、蝦山スタジオの制作進行調査員16号…間島時男であった。

 「来冬公開とか、どう考えても無理じゃないの、社長!春から深夜のアニメだけで各シーズン2本、映画下請けで1年、投げたら制作委員会の信用どこまで下がるんですか。もう額ハゲるぐらい現場で土下座してる身にもなって下さい。3Dの増員ばかりじゃなく、作画にも地球人スタッフ入れて下さい。」

 「全体スケジュールは俺を含め取締役調査員とプロデューサー調査員の仕事だ。今泉クンは君の地元の後輩だろ、ガヤ仕事を回してたのも知ってたぞ。来冬より後ではスケジュールを箱田さんに疑われてしまうんだ。3DCGスタッフ増員はダミー。人数増やすフリして…実際少しは増やすけどね。プロデューサー調査員が出来る限り3DCGで請け負う。意味わかるよね。」

 蝦山スタジオ代表である代表取締役調査員2号…田沼陸造が答える。

 「まさか、4DCGS使うんですか?」

 「出来るだけ日本のアニメーション技術でやってきた、やりたかったが、他の仕事は4DCGSでこなして進める。初のオリジナル長編映画はどうしてもフィラフステ星人による手書きアニメーションでやりたい。無論、必要な部分は3DCGを使うがね、潜水艇なんかも出るワケだし。でも人は、顔は手書きでやりたい。それこそがフィラフステ星人の悲願だよ。」


 4DCGSとはフィラフステ星人が開発したアニメ用システムである。フィラフステ星人形態の監督調査員または演出調査員の頭部に針状のセンサーを刺して、脳内の画像を自動的に3DCGとして出力する。地球でいうコンピュータ部分は光速を遥かに超える内部回路であり、そのアニメ制作の大半の時間を短縮する能力をして4次元コンピュータグラフィックシステム、通称4DCGSと呼ぶ。

 音については音楽監督も出来る監督調査員であれば自動作曲されるし、そうでない場合は監督調査員の脳内データサンプリング後に音響調査員と作曲調査員の頭部に針状のセンサーをぶっ刺して効果音及び劇判と呼ばれるBGMを作る。もちろんセンサーを付けた頭部のダメージは大変なもので、実用試験でも1/3の調査員がフィラフステ星に帰還した。

 「無論、担当各調査員は受け入れてくれた。皆、野望を果たしたいのだ。」

 4DCGSで監督・演出調査員たちが苦痛を味わう中、間島たち制作進行調査員は走り続けた。車と足で。制作打ち合わせ、設定、脚本、演出、原画、動画、彩色、撮影、音響、編集、納品など、全ての制作スケジュール進行は彼らの手にかかっている。4DCGSでの時間短縮は素晴らしかったが、それでも一部、手書きのアニメについては事情を知らない地球人たちに二割程度スピードアップを要求したからだ。間島時男の額は土下座のし過ぎで、擬態を解いても皮が剥けてるように見える程となった。


 もちろん、主となる映画「深海冒険マリンレスキュー」のほうの制作には力を入れた。原画と動画、脚本、演出、監督の調査員を経験し、アニメーション業界で実績を認められ蝦山スタジオの代表取締役調査員となっていた田沼が「監督」に復帰した。監督・演出調査員の消耗が激しかったコトと、田沼自体が一番野望に燃えていたからだ。アニメ業界は田沼の監督発表に「蝦山スタジオが新作に全てを賭けている」と騒然となった。

 企画の骨格はアッサリと決まった。箱田に「フィラフステ星人」とか「声優」のワードを聞かれているコトから、自分達そのままの設定にした、するしかなかった。深海調査艇を勝手に動かして深海を漂流した高校生のカップルがフィラフステ星人に助けられる平和アピールの深海パートと、40年前の電波によりアニメ制作を目指すフィラフステ星人の一人が声優学校の生徒として生活する地上パートを組み合わせて話を構成する…。

 しかし、監督の理想は高い。商品展開上で必要とプロデューサーから海底調査艇をロボットに変形させろという要求も出てくる。フィラフステ星日本海溝遠征基地の長の「少し年齢を下げるべきではないか」との話については他の全てが否定して事無きを得たが。やや説明不足な面もあるが、そこが好きな大人たちに向けて深海パートと地上パートを別々に深夜アニメとして放送する大胆な計画も盛り込まれた。

 脚本家3名と田沼監督によって脚本は収まり、続いて作画に入る。フィラフステ星人の作画班も他の仕事を全て捨てるまでには至らなく、大変な苦労をした。演出に煮詰まった田沼監督がふらりとやってきて原画を凄い速度で描いて行ったり、他の作品が間に合わない時に、こっそりと自分でも描いていた制作進行の間島が、手の空いた時間で動画をクオリティを落とさずに数カット上げた時には他の動画の者たちから喝采も沸いた。


 一番苦労したのは桃色っぽいタコ…もといフィラフステ星人声優調査長1号、仮の名を河本ゆりかだった、という話が後に語られる。なにより大変だったのが箱田の大根演技を修正するコトであった。箱田の声をサンプリングして合成したほうが早いと音声監督が頭を抱える始末である。一応、箱田自身も自分に声優の才能が、少なくとも同じ声優学校の今泉よりは無いと自覚しており、声優学校ではちゃんと指導されていたのだが。

 箱田については今泉の発案で地上パートのヒロインから、深海パートで深海調査艇を主人公に乗り逃げされる調査艇母艦の女性艦長の役に変更となった。今泉自体が箱田に良く怒鳴られており、怒鳴る役なら演技は「あまり」必要ないのでは?と。それでも河本ゆりかが付きっきりで指導を重ね、収録もリテイクを重ねに重ね、監督からOKが出るまで半年近くを要した。地上パートのヒロインと主題歌は河本ゆりかが素晴らしい仕事をして、作品の質を格上げした。

 広告も奮闘した。なにせスタジオ初のオリジナル長編映画である。映画会社のほうは代表取締役として潜入した元代表取締役調査員1号が、他の企業もフィラフステ星人のプロデューサーたちが上手く立ち回り、アニメ雑誌等に大きく取り上げられた。深海パートと地上パート別々の特報・PVを制作して、まったく違う印象を与えるコトにも成功した。

 深海調査艇がロボットになるおもちゃのCMも人気が出た。おもちゃが水中で空気の泡を漏らしながら変形する実写映像が子供だけでなく、大きな子供たちにウケたのである。昔は良くあった画だったのだ。

 そして、ついに映画公開日が来た…。



4.本当の嘘


 公開当日は早朝から皆が緊張していた。上映後に監督と共に舞台挨拶をするコトとなった声優陣、とりわけ箱田は数度トイレに駆け込む程である。今泉の地球探査員B役は地上パートの主役となった。そこはシナリオに変更があったと箱田に説明したが、私を差し置いて主役をと散々怒鳴られた。そんな箱田が役名と名前を言うだけの舞台挨拶で緊張しているのを見て、今泉は少し落ち着いた。

 上映は素晴らしい歓声と共にフィナーレを迎えた。作画は地獄のスケジュールの中で作られたとは思われない程に安定して、劇判も高い評価を得た。声優については箱田の演技が笑の演出と捉えられて評価されるという望外な形となった。もちろん河本ゆりかによるエンディング曲は多数のフアンがイントロだけで涙した。もっとも残りの客は既に泣いていただけであるが。

 なにより、深海パートと地上パートに別れていた話が進むほどに融合していく脚本と演出は高い評価となり、現場復帰した田沼監督の素晴らしい才能を感じさせるものであった。テロップ後のテレビアニメ化を匂わしつつ、笑いを取る演出も受け入れられた。

 フィラフステ星人の40年来の野望はここに、最高の形で結実したのである。


 舞台脇のフィラフステ星人は泣きに泣いた。監督の号泣っぷりはこの後に舞台に上げて良いかと思う程であった。もちろん日本海溝遠征基地から大型モニターで見ていた長を始めとしたフィラフステ星人、いや、ライブビューイングしていたフィラフステ星の全ての住民が涙していたのである。

 涙を拭いて皆が舞台に上がって整列した時に事件は起こった。皆が耳に隠れるように装着しているイヤホンに日本海溝遠征基地の長から涙声で音声が入った。

 「電磁波の障害か故障か不明だが、擬態システムが停止する。皆舞台から…」

 長の話の終わる前に舞台の上、箱田以外の全員が人間の擬態からカラフルな、いわゆるタコ…もといフィラフステ星人本来の姿になったのである。

 「あ、フィラフステ星人!」

 子供の声が響き、固まっていた観客が一斉にざわめき出した。

 「なんだ、あのタコ!」

 「ステージ上でCGなんか使える環境の劇場じゃなかったよな、ココ!」

 「宇宙人、宇宙人なのか?」


 発覚してしまった。フィラフステ星人が実存して地球にいるコトが。館内はさらに大きな騒動に…なる前に!

 「皆さん静かにして下さい、ちょっとだけ静かにして下さい。」

 箱田の毅然とした声が館内に響いた。そして、その時に中段に座っていた一人の老人が手を挙げた。すかさず箱田がマイクを老人に渡すように館の人間スタッフを促した。

 「これは、このアニメに出てくるフィラフステ星人とは君たちなのかね、本当に?」

 「はい、私たちは40年前に地球から受け取った電波、「帰宅後のステマ・まじか」の影響でアニメーション制作をやるために来ました。私も人の形に擬態して動画から始まり、監督まで修行を重ねました。この映画は艦長役の箱田さん以外、全てフィラフステ星人の手による物です。私たちのあの電波への回答…あなたへの恩返しなのです。」

 茶色っぽいタコ…フィラフステ星人となった田沼監督がマイクを手に取って説明した。

 「当時、たしかに「帰宅後のステマ・まじか」の宇宙放送は実施しましたが、まさか本当に受信した宇宙人がいたとは。申し遅れました、田沼監督はご承知の模様ですが、私は「帰宅後のステマ・まじか」の監督をしていた箕輪と申します。」


 観客席が湧いた。箕輪監督は20年程前に世俗から消えていたアニメ界のレジェンドだったからである。

 「私が最初に動画の手解きを受けたのが箕輪監督でした。あの感動は今も忘れません。」

 「まさか、嘘から出たまこと…いや、この映画は君たちにとっては本当の嘘なのか。素晴らしかったよ、本当に素晴らしい映画だ。」

 「回復した!」

 長の声を聴くと同時に舞台の上のフィラフステ星人たちが人の姿に擬態した。

 「ここにいる全ての人、いや、世界中の人にお願いしたい。私たちフィラフステ星人のアニメーション制作を続けさせて欲しい、私たちを地球に受け入れて欲しいのです。フィラフステ星人は平和が好きです、それはこの作品から理解いただけるように作ったつもりです。本当はもう少し年数を重ねてから正体を現したかったのですが、発覚がワープした模様で。あ、ワープといえば、地球に現在必要のない、平和を損ねる可能性のある科学については、もう暫くお話出来ませんが……。」

 田沼監督のスピーチに箕輪監督が拍手をした。続けて観客席からも次々と拍手が湧いた。


 そして、ちょうど1年後に日本及び国連とフィラフステ星の和平交渉が結ばれるコトとなるのだが、それはまた後のお話。



 「いやぁ、雛さんのおかげで助かりましたよ、よくあの場で館内を鎮めてくれました。」

 「なんか、アンタがタコになるの見て現実に引き戻されたからね、私にタコの姿を見られたからこの仕事をくれたんでしょ。まあ、有難かったけどね。」

 騒動の後に普通の舞台挨拶をして、観客席で銀色っぽいタコ…もといフィラフステ星人の姿に一時なった映画会社の取締役が、マスコミ等に細かい説明は後日にするからと説得し、水を媒体とした転送装置でフィラフステ星人は皆、日本海溝遠征基地に戻ったのだ。泣き叫ぶ長たちの元に。

 ただ、箱田を日本海溝遠征基地に入れるのは時期尚早と長が判断し、今泉の家に今泉と箱田を転送したのである。

 「まあ、明日からはとても忙しくなるわね、特に私たちは。」

 「え、なぜこの俺たち?」

 にんまりして箱田がポケットから取り出したのは妊娠検査薬だった…陽性反応済みの。二人にとって今日一番の発覚であった。



~fin~

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