立ち飲みカブト
駅前の立ち飲みに入ったら、兜を渡された。
「この三日月は…伊達政宗?」
「ご名答。当店ではみんな、武将になっていただくのです」
「ええっ」
「武将呑みがウリですからね」
見ると、カウンターの客は全員、兜をかぶっている。
のれんの内側なので、絶妙に外側からは見えない。
渋々カブトをかぶって入った。
メニューを見ると、焼酎と日本酒が多い。
ビールもあったが、他のお客はほぼ飲んでいない。
みんな、赤い大きな盃を前に、
兜を揺らしながら飲んでいる。
「ああ、サムライなんだ」
企業戦士は、侍なのだ。
仕事の重責に、飲まなきゃやってられん理不尽。
家に帰ればカミさんに文句言われ、世間では社畜って鼻で笑われるけど!
「案外、いいかも」
サムライ気分でそんな我が身を慰めるプレイ。
しかも、立ち飲みだから、千円でベロベロ。
「あっ、豊臣秀吉が倒れた!」
隣のお客がボソッと呟いた。兜の重みでカウンターをゴンっとやった秀吉が見えた。
秀吉は出来上がっていて、半分寝ている。
「お客さん。お勘定するね」
大将がすかさず計算を始めた。
「それ以上すると、首、捻って回らなくなるからさ」
秀吉はかろうじて財布を出した。
「…この兜、厄介なお客を帰らす目的だよな、絶対」
隣のお客の冷静さが、シュールだった。
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