もろさわ

もろさわ。
ずいぶん昔から
「もろさわ」とつい何気なく
口にしてしまう自分がいる。
全身脱力する感じで
「もろさわっ」と言ってしまうのだ。
これって私だけなのだろうか?
もろさわって何だろう?
もろさわって誰だろう?
生まれてきて何千人かの人と
私は会ってきたのだろうが
私のメモリーにもろさわさんはいない。
しかしだからこそ「もろさわ」と
言ってしまうのである。
誰なんだもろさわっ!
おっさんなんだろうか。
オナゴなんだろうか。
絶世の美女であるもろさわさんを
もろにさわることでもろさわさんから
ビンタを喰らうだろう。
だがよーく聞いて欲しい。
ビンタを喰らう瞬間に「もろさわっ!」と
叫んで私は応戦するつもりである。
もろさわさんをもろにさわるのは一度だけ。
だからこそ「もろさわ返し」を
失敗するわけにはいかないのだ。
あなたはすでにもろさわさんに
会っているのかもしれない。
何ともうらやましい限りである。
しかしいずれ私ももろさわさんに
会う時が来るだろう。
もろさわさんがただのおっさんだったら
私はいつも通りの「全身脱力もろさわ」を
彼におみまいすることになるだろう。
私は他人がいるところで
「もろさわ」とは言わない。
絶対に言わない。
それはもろさわさんとの約束なのだ。
まだ会ったことがない
もろさわさんとの破れぬ約束なのだ。
私がもろさわと言う時
あなたはもろさわになる。
もろにさわられる覚悟をしなさい。
あなたは全身の力を抜き
私にもろもろされる。
もろもろにされたあなたは
意識を失いふと気付いた時は
私はもういないであろう。
だが安心して欲しい。
さわさわにさわやかな気分に
なっているだろうから。
私は今日もまた
誰もいないところで
密かに「もろさわ」と言う。

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