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『文章講座植物園』試し読み 梨皮いつき「薄いグリーン」

梨皮いつき「薄いグリーン」本文よりカットアップ。

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レタスを剥がしていくと真ん中には芯のような部分がある。キャベツみたいに硬くはない。葉っぱになる意欲を秘めた、楕円形の蕾。/「ぼくは、あそこが大好きだ。仕込みのときも、こっそり齧ってる。誰にも渡したくない」/腕の内側を、わたしのそれにくっつけると、あの人は荷物を引っ張るような調子で歩きはじめた。/「守屋さん」あの人の顔が緩む。「君は丁寧すぎて損するタイプだね。こういうのは、勢いでやった方が早く終わるんだよ。決まったかたちがあるわけじゃないし」/遊んでいた少年たちは自転車に駆け寄り、握っていたゴムボールでゴミ拾いの男性を威嚇してから、去っていった。/南口側は今も昔も陰気である。/「手が空いたらレコードを。何でもいいから」/土が、わたしの顔に当たった。/わたしは手紙を破り捨てるような気持ちで、レタスの葉を、ひと口サイズのサラダ片にしていった。/むかいから原付がくる。/たくさんの意味を持っていながら中心を欠いたものをタマネギに例える人は多い。/「おつかれさま」/こんなことなら、さっさと帰ってドラマの再放送を見ればよかった。

挿画:今村健朗

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続きは『文章講座植物園』にてお読みいただけます。

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