「ボンダンスの夜」 余花「え? なに? よく聞こえない。今いる場所? ……なんか銅像が立ってる、恵比寿駅のロータリーのほうで、長いエレベーターが見えるところ。うるさい? だって駅前で盆踊りをやってんだよ。今、かかってるのは“We will rock you”で、みんな、普通に踊ってるよ。ていうかさっきからずっと、クイーンが流れてるんだけど、違和感ないね。盆踊り、案外、海外進出もできるんじゃないの。
そんなことより、悪いけど池袋には行けない。香野がいなくなっちゃったんだよ。ス
「幽霊屋敷」 ss
玄関扉を叩く音が聞こえて、わたしはうたた寝から目を覚ました。時計をみるともう四時だ。緑が来たのかもしれないと、ぼんやり思った。
昼過ぎ、孫娘の緑が突然電話をかけてきた。仕事で近くへ来ているそうだ。帰りに寄ると言うのでお茶菓子でも買っておこうと思っていたのに、すっかり眠りこんでいたらしい。
玄関からの音は、こちらを急かすように鳴りつづけている。はあい只今と声を張り上げ、慌てて玄関の引き戸を開けると、待っていたのは夫の幽霊だった。二十年と少し前に死んだ夫
「エルザッツ!」 秋鹿憂
六月一日、奇跡的な晴れ、新宿駅西口改札、十六時。約束した時間から二十八分ほど経ち、”Here but now they're gone”、概ねそのような看板や駅内案内もあらかた見飽きた頃に、高田律とようやく合流出来た。わたしのディシプリン。彼女は唇が荒れている様子だ。
新宿西口コンコースは、店舗がどれほどに意趣を凝らして派手派手しく照明を駆使しようとも、来し方行く末の通り仄暗く、朝夕の殺気立った群衆と較べ、なんとも一層弛緩した空気で、行き交う雑