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スパイ教室03 《忘我》のアネット (ファンタジア文庫) 著 竹町     

【生きる世界は甘くなく、打ち勝つ為の残忍さが必要となる】


暗殺者『屍』ミッション達成後、四人の少女が失踪した。選抜組のティア・モニカ・エルナ・アネット。クラウスは、リリィを引き連れて行方を追う。遡ること四日前、四人の少女は休暇を満喫していた。記憶喪失で出自不明の少女―アネットが無邪気にはしゃぐ中、彼女たちはある人物と出会う。それはアネットの母。感動の再会に盛り上がる一同。しかし、それはチームを分断する残酷な運命のはじまりで…『戦慄するような邪悪を感じるんだ』『真の邪悪とは常に善人の顔をしている』『存在自体が間違っている圧倒的な悪だ』チーム最大の危機に、クラウスは間に合うことができるのか。

チーム灯のメンバーが失踪した真相が明かされる中、アネットの母と再会する事で残酷な運命が始まる物語。


スパイに必要なのは、仲間とのズレこそをチームの鍵とし、エゴを剥き出しにして衝突する事。

失踪した仲間を捜索する為に抜擢されたティアは連携の取れない仲間達と試行錯誤しながらぶつかり合う。

そして、アネットの母との再会により、純朴だった母親の素顔のベールが剥がされる。

娘を利用して逃亡しようとする圧倒的邪悪さを前にして。
記憶喪失で出自不明の少女、アネットの母、マティルダは甘言を用いて擦り寄ってきた。
永らく孤独を抱えてきたアネットには、彼女の存在が何よりも愛おしくて。
しかし、その母の優しさも全て打算の為であった。
実の娘すら利用する世界の非情さ、残酷さが垣間見える。
当然、アネットは大きなショックを受けて、深い哀しみに暮れるが。
人知れず、復讐すると決意を固めれば、揺るがないほどに容赦は無く。
母に教わった発明で、無垢な徹底ぶりで彼女を追い詰める。
そこには彼女が「忘我」と呼ばれる由縁があった。

クラウスが正しく評価したように、自分の目的の為なら、いくらでも価値観を歪めて狂気に染まる事が出来る、いわば彼女の才能。

我を忘れて母親に復讐を果たした末に待つのは、大きな喪失感、深い虚しさ。
真の邪悪とはいつも善人の顔をして、優しく甘い言葉でこちらを惑わしてくる。
そんな存在が実の母親だとは何とも皮肉で、世界は非情だと思い知らされる。

アネットは純粋な残忍さで母に鉄槌を下すのだ。

母に裏切られて失意の底だったアネットのもう一つの居場所となる、チーム灯の存在とクラウス達の存在はどうしよもない世界で僅かに残った希望の光となり得るだろうか?



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