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映画感想文【ウォンカとチョコレート工場のはじまり】

2023年 製作
監督:ポール・キング
出演:ティモシー・シャラメ、ヒュー・グラント

<あらすじ>
純粋な心ときらめくイマジネーションを持ち、人びとを幸せにする「魔法のチョコレート」を作り出すチョコ職人のウィリー・ウォンカは、亡き母と約束した世界一のチョコレート店を開くという夢をかなえるため、一流のチョコ職人が集まるチョコレートの町へやってくる。ウォンカのチョコレートはまたたく間に評判となるが、町を牛耳る「チョコレート組合」からは、その才能を妬まれ目をつけられてしまう。さらに、とある因縁からウォンカを付け狙うウンパルンパというオレンジ色の小さな紳士も現れ、事態はますます面倒なことに。それでもウォンカは、町にチョコレート店を開くため奮闘する。

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あの『チャーリーとチョコレート工場』の前日譚、という予告であったからとんだハチャメチャブラックユーモアを期待して観に行ったのだが、まるっきり違った。
なんだこのハートフルストーリーは。
懐かしさに『チャーリーと〜』を再視聴したから尚更違いが際立った。

前作(もうメンドイのでこのように表記する)の方は2005年の製作ということで18年も昔。見返してみると随分印象が違っていた。
秘密に包まれた謎の大チョコレート工場。その後継の権利を狙って年端も行かぬ子どもたちが子どもゆえのあざとさ全開でやらかし、その都度過剰なまでに成敗されていく。結局最後に残ったのは純粋なチャーリー少年だけだった、という、過程はともかくわかりやすいオチ。とはいえその過程が問題。監督ティム・バートンが低年齢層へ向けて容赦なしにブラックユーモアをぶちまけたというか。早急に原作を確認せねばと思った。

一転して今回の作品はハートフル。多少ブラックなところはあるが、前作に比べれば全然大したことはない。よりマイルドでミュージカル色が強くなった。
ティム・バートンゆえの前作がお好きだった人は要注意。多分がっかりすると思う。

ではちょっと難しいがまったくの別物として観た場合はどうか。
というかストーリーや設定(ウォンカパパやウンパルンパとの関係など)が大きく異なっているので、実際に別物なのだろう。
そうして改めてミュージカル映画としてこの作品を観た場合、案外いいと思う。

というのも本来、自分はミュージカル映画が苦手なのである。
以前にも書いたが、真面目な話を真顔でしているのに突然歌い踊りだす脈絡の無さについていけない。「あれは高まった感情の発露なのだ」などと言われても「いやでも別に実際は歌いはせんやろ」なんてお話にならないことを考えてしまう人間なので、土台ミュージカル向きでないのだ。

そんなミュージカル苦手人間が案外いいなと思ったのは、全力でファンタジーだからだ。
『レ・ミゼラブル』や『ウエスト・サイド・ストーリー』『サウンド・オブ・ミュージック』など(古いものばかりで失礼。これくらいしか観ていない)の王道では、きちんと真面目でリアル、現実的なストーリーがかなりしっかりしている。戦争であったり貧困や対立だったりと様々だが、どれも現実世界の話だ。
登場人物たちも真面目に現実的な悩みを抱え、演じている。つまり自分たちの現実と近すぎるのである。近すぎるが故に「だからなんで急に踊りだすねんな?」となってしまうのだ。

ところがこの作品では、そもそもありえないチョコレートでありえないストーリーだらけ。歌って踊って、全部最初から非現実、つまりはファンタジーで楽しい。
とんでもチョコレートの数々が登場したり、風船で空を飛んだり、空想の世界に飛び込むのに躊躇がない。思い切り楽しめるから、歌もダンスもミスマッチを感じることなく受け入れることが出来た。

歌だけ、踊りだけ見るなら、多分もっと優れたものがあるのではと思う。それこそ『サウンド・オブ・ミュージック』のドレミの歌や、往年の名俳優フレッド・アステアのダンスなどは素晴らしいだろう。
しかしこの作品にはストーリーの展開、王道さ、そして子供の夢を映像化、という巧みさでもって全体的な良さがある。まさに大人から子どもまで楽しめる素敵な映画だろう。

全体的によく出来て楽しめたし、他人にもおすすめできる良作だと思うが、やはり前作のイメージが強すぎることだけは問題か。
特にウンパルンパの影が随分と薄くなってしまったことは残念。ヒュー・グラントも役の振り幅がすごいな(笑

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