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読書感想文【書店主フィクリーのものがたり】

著者:ガブリエル・セヴィン
2016年 第13回翻訳小説部門本屋大賞

人生で一番大切だと思っていたものを、ある日突然失ったら。
別のものをまた大切だと思えるようになるには、大変な熱量が必要になる。
愛妻を失い、また宝物の本も失い、自棄になった書店主フィクリー、A.Jが幼いマヤと出会いゆっくりと心のゆとりを取り戻していく様子が、登場人物に寄り添いながらも淡々とした文体で語られるのが好ましい。

本の中、あちこちに実在の作品やセリフが登場する。豊かな本の知識はA.Jやマヤ、アメリア、そして島の人々の生活を彩り、読者へ「次に読みたい一冊」を教えてくれる。
生憎と翻訳小説には長く苦手意識があり敬遠していたので、作中に出てくる作品はほとんど知らないものばかり。その点がクリアであれば、もっと楽しめたのかもしれないと惜しく思う。
この本を参考に、もう少し自分の手を広げてみたい。

フィクションにはしばしばこのA.Jのような、生き字引のごとき書店員が登場するが、現実でも皆これほど詳しいものなのだろうか。作中のように本について語ったりした経験がない。
本を読むことは孤独な作業であるけれど、孤独を紛らわす為に本を読むわけではない。
誰かの物語を読めば、それだけでもう、誰かとつながることが出来るのではないだろうか。

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