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映画感想文【ゴッドファーザー】

1972年 製作
監督:フランシス・フォード・コッポラ
出演:マーロン・ブランド、アル・パチーノ、ジェームズ・カーン

<あらすじ>
イタリア移民のマフィア、ドン・コルレオーネ(マーロン・ブランド)。
絶大な富と権力を築くが、対抗勢力との闘争で銃弾に倒れる。報復にでた末息子マイケル(アル・パチーノ)は国外へ逃亡を余儀なくされ、更には跡目のソニー(ジェームズ・カーン)をも喪う。激しさを増す争いに終止符を打つため、コルレオーネは名だたるマフィアのドンたちに呼びかけるが……。



ドン・コルレオーネ(マーロン・ブランド)


映画好きを名乗るうえでの必修課題をようやく終えた気分である。

タイトルがひとり歩きするほど有名過ぎるのでいつの間にか観たような気になっていたが、最初から最後まで通して観るのは実は初めてだった。
多分子供の頃にTV放送されていた際にあの”馬の生首 in the bed”シーンを観て恐ろしい映画だと印象が強くなってしまったことも関係していると思われる。子供じゃなくてもトラウマ確定だろう。
ただアレがどんな流れでそうなったのか、長年気になっていたのも事実。トラウマは克服してなんぼじゃいッ。

イタリア系ファミリーの壮大な叙事詩、175分。お尻が痛くなるほどにはやはり長い。映画館でなければ途中で挫けていただろう。しかしついぞ居眠りすることはなかった。
マフィアを題材とした映画なので、当然暴力描写は多い。特に中盤、マイケルの若い妻アポロニアが突如車の爆破で殺されるシーンは驚きと哀れで半泣きになる。最近の「魅せる」アクション映画と違って誇張されていない素の銃撃シーン。かえって生々しい暴力を感じる。
だが映画が語るのは、暴力だけではない。

マフィアの息子として生まれながらカタギに育ったマイケルについて。
恐らくドン・コルレオーネの方針であったのだろう。いつまでも腕力に物を言わせて暗部に生き続けることは出来ない。であればマイケルはファミリーの長い繁栄につながる表の顔に、と。
マイケル自身もそれを自覚してか、最初の登場では軍服に身を包んだ戦争の英雄だった(らしい)が、ドン・コルレオーネの負傷を機に眼差しはギラつき、徐々に暗部に生きる男の顔になっていく。

家業を嫌悪しながら結局そこにどっぷりと身を沈めるマイケル。文字で書けば哀れな運命と言えそうだが、どうにも最初から彼の本質はそこにあったのではないか? カタギなんてただの偽装だったのでは? 
アル・パチーノの持つデンジャラスな空気は、そう思わせるに嫌味なくらい当てはまっている。その後『スカーフェイス』『ヴェニスの商人』など裏街道を行く役どころで高く評価されているのも頷ける。ひと癖も二癖もある退役軍人を演じた『セント・オブ・ウーマン』も個人的には好みだ。

そして一代で全てを築き上げたドン・コルレオーネ。マフィアの凄みと、矛盾せず共存する愛情。
終盤は怪我と老いで日和ったかと思わせるような穏健派ぶりだが、どっこい争いの黒幕を一瞬で見抜く鋭さは健在。カスカスの発声は聞き取りにくいかもしれないが返って老獪さを増していて良い。

本作は単なるマフィア映画というには骨太が過ぎる。ふんだんに散りばめられた暴力と重厚な筋書きについ圧倒されるが、それだけに気を取られるとすぐ見逃してしまう、男たちの愛情と哀しみ。
誰もが必ず一度は耳にしたことがあるあのメロディーに乗って、ふいに漂う悲哀。
そう、彼らは決して幸せそうに見えないのだ。

絶対的な強者として富と権力を手にしているのに、幸せとは遠く離れ、なんなら疲れて辛そうな表情ばかりが印象に残る。冒頭では娘の結婚式という晴れがましい日であるにも関わらず、次から次へと厄介事が持ち込まれ、権力者ドン・コルレオーネは席の温まる暇もない。
力を求め、それを極めた男。
望月の代償として失ったものは一体何なのだろう。

続編では本作のその後とともに、ドン・コルレオーネの背景や成り上がるまでの物語も語られるらしい。期待している。
……202分、か……。



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