記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

映画感想文【竜とそばかすの姫】

2021年製作 監督:細田守

<あらすじ>
高知県の田舎町に暮らす女子高生、すずは幼い頃に母を失くし、父と二人暮らし。母の死は彼女から大好きな歌を奪い、以来現実世界はずっと彩りを欠いたものだった。
ある日すずは全世界で50億人以上が集うインターネット空閑の仮想世界『U』に、アバター「ベル」として参加。そこで再び歌を取り戻したすずは大人気アバターとなる。そんな彼女の前に現れたのは、恐ろしい竜の姿をした謎のアバターで…


劇場での公開を見逃しており、友人に勧められたのをきっかけに観てみたが、残念ながら期待はずれであった。

映像と歌はとても美しかった。
アバター・ベルの歌う場面や、自然豊かな高知の風景など、仮想・現実を問わず流石に見応えがある。
仮想世界『U』の中ではアクションシーンがあるが、それも数段良かった。と比較する対象は、同じ細田守監督作品の『サマー・ウォーズ』である。

2009年に公開されたその作品は、同監督作品の一番だと個人的に思っている。『時をかける少女』や『おおかみこどもの雨と雪』なども観たが、一番面白かった。設定が分かりやすいし、ストーリーに勢いがあって、笑いあり、涙あり、最後は納得できる大団円なのが良い。
『サマー・ウォーズ』で重要な役目を持つのがインターネット上の仮想世界とアバターであり、この『竜とそばかすの姫』も同じ要素がある。思うに細田守監督は、この作品で自分の原点(?)回帰を試みたのではないだろうか。

映像のさらなる美しさ、巧みさは間違いなく成功しているだろう。
一見してわかるように、映画には『美女と野獣』の要素が強く組み込まれている。外見も歌声も美しいベルと、一見して強大で恐ろしげな竜と、本当の自分とは大きくかけ離れた二人が出会い、心を通い合わせ、いつしか現実世界でもその可能性を広げていく。

テーマは良いと思うが、その辺の描写がなんだか物足りない。
思うに、登場人物が多い為ではないだろうか。
人数の多さで言えば『サマー・ウォーズ』の方が断然多いのだが、彼らは皆一つの団体に属し、思考の方向性も一致していたのでわかりやすかった。
それが今作では、ちょい役の父親、学校アイドル・ルカちゃん、お騒がせなカミシン、合唱部のマダムたち、そして幼馴染のしのぶくん…、もちろん皆主人公に大きく関わる人達なのだが、関わり方がどれも薄いと言うか、上澄み部分だけなので、感情移入しにくい。
主人公が自分の正体、『U』の歌姫ベルであることを隠しているのだから当然といえば当然なのだが、もうちょっと何とかならなかったのかなぁと思う。
その所為で今作がなんだか劣化版『サマー・ウォーズ』のように見えてしまう、とは言いすぎだろうか。惜しい。

仮想世界やアバターという題材をとりあげた作品は最近特に多く、第95回アカデミー賞の7部門を獲得した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(長い!)も近いものがあると思う。
つまりこれから益々ホットなモチーフだということだろう。
今後の良作に期待である。もちろん、同監督のものも。

この記事が参加している募集

#映画感想文

67,412件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?