南国バリ島の夜はバリバリ伝説
大昔、おそらく20年ほども前になるだろうか、中学生だか高校生だかの頃、一度だけ母親と伯母二人に連れられてバリ島に訪れたことがあった。その頃のことは本当に、部分的にしか覚えていない。
猿園、モンキー・フォレストを訪れた覚えはあるので、牧歌的な棚田の気色で有名なウブドだったと思うのだが、肝心の棚田の記憶がない。
南国の暑さが辛くて、また香辛料の強い食べ物が受け付けずすっかり参っていたこともあるだろう。
バリ・ヒンドゥー教と呼ばれるヒンドゥー教を基に独自に発展した宗教があり、道端には常に花などお供え物のセットがあったことや、ケチャと呼ばれる伝統舞踏、ワヤン・クリという名の影絵芝居も観たが、言葉も意味もわからないので早々眠くなってしまったこと。
覚えているのはこれくらいである。子供の頃の旅とはそんなものではないだろうか。
(なんちゃって)ワケーションが始まり、午前中から夕方まで集まったメンバーが思い思いに作業をこなした後、その日の夜は決起集会のように食事に行った。
バリには鉄道がなく、公共交通機関が未発達なため、島民たちは皆車かバイクで移動する。当然交通量が多いので、主要道路はいつもかなりの混雑具合で常時クラクションが響く。
自前の足を持たない旅行者はGrabというアプリでタクシーを呼ぶのが一般的らしく、バリで初めて使ってみた。
二輪免許は持っていないし、原付きも運転したことがない。バイクの後ろに乗せてもらったことも1度くらい。つまりはほぼ初めてのタンデムである。
Grabの登録は現地の電話番号があれば簡単だ。
現地SIMカードを入れて電話番号をゲットしたらアプリをダウンロード、あとは支払カードを登録すれば、行きたいところに行けるタクシーが拾いに来てくれる。
ヘルメットは当然のごとく義務ではなく、しかし使用率はタイよりも高い気がする。Grabではお願いすれば貸してくれた。
そして千の風になった……。
怖すぎて背中に定規でも入れられたかのようにカチコチ、一本の棒になったかのような緊張具合だった。
聞いた話では片手を方に、もう片手は後ろを掴んで体を固定し、カーブなどでは運転手と同じく体を傾けるのが良いらしい。
しかしひどい緊張でそんなことはできない。
子泣き爺の如くしっかと捕まり、「俺の命運をお前に託す…!」と言わんばかりである。
混んでる時はスレスレの追い越しに背筋が粟立ち、走る時はそのスピードに半泣きになり、たかだか10分程度のドライブ、到着したときには満身創痍であった。
バリの運転は、島民の気質を表すかのようにノリノリである。
交通量は多いし、皆結構かっ飛ばすのだが、それでも滅多に怒号などは上がらない。例えば混雑でちょっとくらいぶつかっても気にもしない。
上記の通り、カチコチ子泣き爺なので決して良い乗客ではないのだが、降りたあとはニコッと笑って見送ってくれた。
比べれば大阪の方がよほどあらくたい。
メンバーとの会話が楽しかったのでほとんど写真も撮っていないのだが、食事は美味しかった。20年前とは違って、バリも観光客向けの味が増えてきているのだろうか。香辛料に泣くことはなかった。
その後、流れでシーシャ(水タバコ)が吸えるお店に連れて行ってもらった。
最近日本でもよく見かけるシーシャ、中近東で発祥した水パイプを利用しており、様々なフレーバーをつけた煙を吸い込む。ニコチンやタールを含まずただその香りや雰囲気を楽しむもの。と、聞いていたのだが。
嘘だった。
最初はただ口内に煙を含む程度なので全然問題なく、フレーバーもさほどきつくなくてこれは面白いかも?と思ったのだが、調子に乗った次の瞬間激しく咳き込んだ。
口の中にはなんだかもちゃっとした感覚が残り快適とは言い難い。
もう二度とやるまい。
テレビや映画で観るタバコをふかすシーンがかっこいいと思うことはある。シーシャもオリエンタルな水パイプの見た目が良いし、物憂げに煙を掃き出す様はなかなか、それだけで雰囲気がでる。
しかしながらこれ以上に煙いのは絶対無理。
やっぱりああいうものは観賞用、見て楽しむに限る。
謎の決意を新たに、再度バイクタクシーでカチコチになりながらホテルまでの夜道を走った。
南国バリ島のバリバリ伝説は生まれた瞬間幕を閉じたのであった。
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