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読書感想文【イン・ザ・プール】

こちらもなんとなく、人に勧められて読んでみた。
表紙はニルヴァーナのCDジャケットを連想させる。

一言でいうと、正しくエンタメ本。
ハチャメチャな精神科医、伊良部一郎が患者に対してハチャメチャな治療を施していく短編集、全部で5話。
三十分アニメのように話の流れはパターン化しており、期待を裏切らないので安心してサクサク読める。話の流れは最初から予想出来るので、期待を高める部分はその『ハチャメチャ度』だ。

患者は皆結構真剣に悩んでいるので、伊良部のような「???」という医者を目の当たりにして面食らうし見下すし、疑う。だめだこりゃ、と思いながらも精神科、というハードルの高さにもうこれでも良いや、と半ば諦めの境地で治療を受ける。憎めないヤツ、というわけではない。嫌われることを気にしないキャラが潔くて良い。看護婦(と記載されている)のマユミちゃんも地味に光っている。
5話の全て、キレイに問題が解決するわけではない。メデタシメデタシ、というよりは、まぁそういうこともあるか…、という感じの締めくくり。
設定から何からハチャメチャな話の展開の中、そこが妙にリアルで現実的である。
最近はリアルの解像度が高めの小説を多く読んでいたので、箸休めにはこれくらいでちょうど良かったのではないだろうか。

発行が2002年、ということで納得の古臭さだった。
長嶋監督、と言われて正しく彼の人を思い浮かべる人はどれくらいだろう。恐らく読む人の多くは『フレンズ』の一遍を興味深く受け止めるのではないだろうか。
まだ携帯電話が一人一台ではなかった頃の話だ。電車やバスで携帯電話を触っているだけで「ペースメーカーの人がいるかもしれないのに…」と周囲に眉をひそめられる。あ〜、あったあった、そういう時代!
たまにTVなどで「携帯なくてどうやって待ち合わせしてたんですかね?」と若い世代が疑問を呈する。そりゃ時間と場所を事前に打ち合わせてだな…、と答えるのだが、実のところ当時の感覚が思い出せない。良くあれですれ違わなかったな、と思うし今ではちょっと出来ない。携帯を忘れてしまったり充電が切れて、しまった!という事態はたまにあるが。
常時誰かとつながっていたい、承認されたい、という欲求と向き合う様は時代を超える。

是非デジタルネイティブ世代の感想を聞きたい一冊であった。


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