見出し画像

読書感想文【貧乏だけど贅沢】

香川・高松に旅した時、ガイドしてくださったIzumiさんにおすすめされた。
今回は旅行のお供に持ってきたのだが、大正解だったように思う。

著者は沢木耕太郎、旅における「贅沢な時間」について十人の著名人との対談が一冊にまとめられている。
沢木耕太郎と言えば、自身の若き頃の貧乏旅行を記録した『深夜特急』が有名なノンフィクション作家である。
と、もっともらしい説明を書いたが、実はまるっとウィキペディアからもってきた説明。実のところ著者の作品を読んだのはこの本が初めてである。是非にと勧められて読んだが、最初は対談集というのが初めてというのもあってか、とっつきにくかった。

一番最初の対談相手はシンガー・ソング・ライターの井上陽水。
こちらは勿論顔もその作品も知っているが、自分たちの親世代に一番受けているのではないだろうか。あれだろ、いわゆる、団塊の世代ってやつ。
失われた20年、いや30年?をふわふわしたアイデンティティーでなんとなく生きてきた自分たちにとっては羨ましいような、鬱陶しいような、「古き良き昭和の人」である。
著者、沢木耕太郎自身も、1947年生まれ。つまりは団塊の世代ドンピシャの人だ。その著者が自分たちと同世代や、十前後離れた年齢の人たちと旅についての思いをぶつけ合う。

対談だから読みやすい、というわけでは決してない。
あるいは読みやすいと思わせておきながら、すぅっと脳みその深いところまで入ってきて読む人に疑問を投げかけてくる。

旅とはなにか?
なぜ旅に出るのか?
旅から何が得られるのか?

文筆家が多いが、間に俳優やプロ雀士などバラエティー豊かな人を挟みながら、その人にとっての『旅』を様々な視点からためつすがめつ、もみくちゃに語り尽くす。
たった一つのテーマでこんなにも裾野は広がるものなのか。自分はたった1000字程度書くのにのつこつしているのに、一体その広がりはどこから湧いて出てくるのだろうか。
知識量?語彙力?経験?はたまた、それに対する愛?

この本が面白くなっている理由は、著者の興味が「旅」に対するものだけだからではないだろう。対談相手自身に対しても飽くことのない探究心が、たった一つのテーマについてこれほどまで豊かな考察を生み出している。
人はやはり「知りたい」という思いの強さの分だけ、対象のみならず自分という人を味わい深いものに出来るのではないだろうか。

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,831件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?