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読書途中感想文【ブレイブ・ストーリー 上】

2003年 宮部みゆき

角川文庫で上中下、3冊完結のところの上巻のみの読了だが、1冊が結構な分厚さなのですべて読みきる前に最初の方など忘れてしまいそうである。備忘録として少しだけ書き残しておく。

小学5年生の三谷亘は、父と母と三人家族。父親譲りで理屈っぽいところが玉に瑕だが、学校でも家でもまずまずの生活を送っている。
夏休みの少し前、近所の建築途中で放置されているビルに幽霊が出ると話題になって、それと同時にミステリアスな転校生・芦原美鶴が現れ、亘の周囲は徐々に動き出す。



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宮部みゆきはほどほどに好きだが、発売当初は思いっきりファンタジーで驚いた。そんな作品も書くんだ、と。ゲーム好きは有名らしく、そうと知ればなるほどそんな感じ、の内容。『タクティクスオウガ』の大ファンと今回知って非常に嬉しい。ワタクシも大好きです。『ブレスオブファイア』も好きです。どちらかと言えばFF派、って感じです。余談です。
(そう言えば文庫本の表紙イラストは『タクティクスオウガ』と同じイラストレーターの手によるものだな)


まずは何と言っても、導入が長ぁい!!
物語では現実世界と『幻界(ビジョン)』と呼ばれる異世界が存在し、主人公・亘はある目的のために幻界へ足を踏み入れる。のだが、それまでが長い。上巻505ページ中400ページ以上、つまりほとんどが現実世界の話であり亘がなぜ幻界へ行くことを決めたかの物語である。長いよ。

物語でもアニメ・映画でも昨今は展開が早い。起承転結の起にはあまり尺を割くべからず、飽きられる前にさっさと見せ場へ移るべし、という風潮なのだろう。
不満がないわけではないが、なんせ供給過多な時代なのでそれも致し方ないかなとも思う。アニメにせよ小説にせよ、見てもらわなければ話にならないのだから。

それにすっかり慣れた身の上で、今回の導入は長すぎる。
宮部みゆきだからか、20年前(2003年)ではそういうものだったのか、判断しかねるがちょっと疲れてしまった。長い分丁寧に描かれていると言えなくもないが、それにしたってなぁ、という印象である。
たださすがの文章能力なので、不必要なわけではない。やたらめったら丁寧に描写している、と言ったところか。

内容についてはまだまだ、本当に導入なのでこれからである。
ただえげつないなぁと思う。主人公・亘ともう一人の重要人物、美鶴の背景についてである。家庭内の不和くらいは描写として珍しくないが、心中事件まで起きる。容赦がない。
2006年にアニメ映画化された際に軽い気持ちで劇場で観たのだが、「ファンタジーの割にやけに現実的でシビアで夢がないなぁ」と思った。正直あまり覚えていないが、あれはあれで多少描写をマイルドに仕上げていたのだろう。原作はもう一段えぐい。
亘の家では父親・明が不貞(?)で家を出る。母親・邦子は離婚に応じず、業を煮やした不貞の相手が家に乗り込んできたり、義母が泣きわめいたり、状況は泥沼と化す。昼ドラやないかい。

父親と亘がそれについて語るシーンがあるが、それが一番印象に残った。
とにかく理屈っぽくて独善的で、腹立たしい。一番腹立たしいのは彼の理屈に一見穴がないところである。
子供の亘もその年齢にしては理論的に物事を考える質だが、当然大人の父親には敵わない。結局良いように言い捨てられてしまう。おそらくその場に誰がいたとしても視野狭窄に陥っている彼の考えを覆すことは出来なかっただろうが、父親のジコチュー爆発で腹立たしいことこの上ない。亘はまんまと父親へ自己陶酔の場を提供してしまった。

理論重視でかつそれを実践してきた人間にありがちだが、他人の心情を顧みない。いや、彼らは彼らなりに考えてはいる。だがあくまでも理屈が判断基準であり、それも結局「自分が」「自分が」なので(自分が認識していなくとも)厳密には理論的ではない。やたら理性的でいようとするのも癇に障る。
「ハイ論破」にも通じる苛立たしさだ。
せめて財布くらい落としてほしい。タンスの角に小指ぶつけろーッ!!

……と、なんでそこまで父親に腹立たしさを示すのかと言えば、自分も同類だからである。
感情論を他人と戦わせるのが面倒だから、できるだけ理論的にありたいと思いながら、そのくせその理論は自分中心なのである。
どうせ同族嫌悪だよーッッ!!


思わぬところで印象深い一冊であった。多分作者はそこまでその点に重きをおいていないとは思うが。
いささか丁寧すぎる導入がまだるっこしいと言いながら、ここまで(負だろうが正だろうが)感情を引っ張り出されるわけだから、やっぱりこの長い前哨戦は必要だったのかもしれない。
できるだけ早く、内容を忘れてしまわぬうちに続きを読もう。


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