映画感想文【SHE SAID その名を暴け】
観ている最中からやや後悔した。
あー、これ、原作読んだほうが良い。
映像の力は凄い。
映像は一瞬でものを伝える。
映像と文章、それぞれの良さがあるから比較するのもナンセンスだが、伝達速度と瞬間的情報量の多さは間違いなく映像が勝る。
この映画が映像化され、伝わるものは沢山あるだろう。より多くの人が絶対的権力者からの性的暴行の事実を知り、声を上げることの勇気を知ることだろう。
しかしこの問題は2時間やそこらで語り尽くせるものではない。取り上げたテーマがどれほど根深いものか、今の自分たちにどう関わっているのか、知るべき問題であると思えばこそ、文章で知るのが相応しいのではないだろうか。
<あらすじ>
ニューヨーク・タイムズ紙の記者ミーガン・トゥーイーとジョディ・カンターはアメリカ映画界、ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの数十年にわたる性的暴行について、タッグを組んで取材を始める。
取材を進めるうち、被害女性の多くは巨大な権力によって示談に持ち込まれ、幾度となく事件がもみ消されてきたことを二人は知る。やがて問題の本質は事件そのものではなく、加害者を守る業界の体質や法であると気づいた記者たちは、ワインスタイン周囲からの圧力を受けたり様々な障害にぶつかりながらも真実の公表に踏み切る。
冒頭はトランプ大統領のスキャンダル取材から始まる。どうも芳しいものではないらしいが、あまり時間は割かれていない。この点、原作で詳しいことを知りたいと思うし、もっと当時の状況など調べてから観に行けば良かったとやや後悔している。
取材の様子を忠実に再現しているのだろうか、はっきり言って全体的に地味な映画である。
隠された真実を暴く、という作品は昔から多くある。有名どころで『ペリカン文書(’94)』、新しくは『新聞記者(’19)』、テレビドラマでもお決まりのテーマだ。
今回の作品は真実を炙り出す、という点よりも、ある真実をどのように証明し伝えるか、に焦点を置いている。だから前述の作品のように、命をかけた逃走劇や真実を見つけた時の衝撃シーンなどはない。性的暴行の直截なシーンもないのは、なかなか思い切った手法だと思う。
その分被害者たちや記者たちの心情や葛藤が、いっそじれったいほど丁寧に描かれている。
セクハラ、性的暴行の事件が難しいのは、証言が難しいからだ。
その事実があったという証明をするために、暴行された被害者(多くは女性)は耐え難い恥辱を何度も繰り返し受けることになる。
冤罪を防いだり正しい処罰の為に事実確認は必要だが、数ある犯罪の中でも性的暴行に関しては被害者への対応がより難しいだろう。どんな風に乱暴をされたか、思い出すのも辛いことを第三者へ事細かに説明するのがどれほどの苦行かなど考えなくても分かる。
そうした被害者たちの辛さが良く描かれた作品だった。記事を書く記者たちも、それを重々承知の上で応えてくれた言葉を無駄にしない為に東奔西走する。地味だな、と思ったけれどそれは現実社会を忠実に描いているためだろう。リアルの世界では悪いことも良いことも、大体はそんなに派手なもんじゃない。その地味な積み重ねのなか、消えてしまいそうな弱いものの声を取り上げてこその「ペンは剣よりも強し」なのではないだろうか。
加害者、ハーヴェイ・ワインスタインは映画に全くといっていいほど姿を現さない(声は出る)。代わりにその弁護士が、記者に説明を求められ登場する。その言い分たるや、世の女全てを敵に回すものだ。これで許してもらえるとでも思っているのだろうか、思っていたのだろうな…。
自分の実績と権力を持ってすれば、何者も御せると錯覚したのだろう。
人間社会は相互理解、と理想を掲げてはいるが、瞬間的に心のシャッターがピシャリと降りてしまった。
きちんと話を聞く記者って凄い。
タラレバだが、これが男性記者であればどうなっていたのだろうか。是非男性の映画感想を観たい。
取材する記者の働く女性でありまた母である面が描かれるのは好印象だ。
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