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『おいしいごはんが食べられますように』を読みました。
夏休みなのでね、いつもの「おじさんの自分探し」はちょっとお休みして読書感想文など。
第167回芥川賞受賞作『おいしいごはんが食べられますように』を読みました。
著者の高瀬隼子さん、受賞のインタビューを見たのですが、いわゆる普通のかわいらしいおっとりした女性という印象。
本のタイトルも装丁もかわいいので、食事が題材のほっこりした話なのかな、と 移動中の新幹線で本を開きました。
どこにでもありそうな会社の地方支店の職場を舞台に、どこにでもいそうな3人の若者の日常を描いた作品。
しかし、最初の数ページを読み始めた段階から、気持ちがざわざわしはじめ、その後も読んでいる間ずっと不快で、
「この不快感から早く解放されたいから、さっさと読み終えてしまいたい」という めずらしい読書体験をしました。
3人の若者にも、それ以外の登場人物にも、その全員にどこかしら共感しつつ、一方でその全員を激しく嫌悪してしまう…
とにかく、最初のイメージとは全く違う作品でした。
がんばってさっさと読み終えたものの、読後しばらくの間、物語の世界を引きずってしまいました。それはこれまであまり経験したことのないなんとも不穏な時間でした。
市井の人の日常を描いているのに、こんな気持ちにさせるなんて。作者の文章がおそろしく巧い事は間違いないし、やはりこれ、なんだかすごい小説ではないか。だから芥川賞なのか。と、悶々としながらも自分なりの着地。
好きか嫌いかで言えば間違いなく好きな部類の作品。
でも、これあまり人に薦めたくないし、他人とこの作品について語りたくもない。
そんな本なかなかないですよね。
著者のインタビューでは「全部書き上げた後、最後の最後にタイトルを決めた」との事。
テレビ東京で週末の深夜にドラマ化されそうな、このやさしいタイトルと、表紙のイラストを決めた編集者、すごいです。
ちなみに、本のカバーを取ると、これまたかわいいマフィンとクッキーのイラストが出てくるのですが、読んだ後にこれを発見し、怖くて怖くて震えました。
誰かがtwitterで書いていた「すべての表現は暴力性をはらんでいる」という言葉を思い出しました。
「おいしいごはん」という安全なイメージしかない言葉の、果てしない暴力性を感じると、少なくとも食欲はなくなります(笑)
気持ちの周波数が合わない時に読むと、心から気分が悪くなると思うので、繊細な方はどうぞ心の調子のよい時に読んでください。
それぐらい凄みのある怪作です。
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