緑の血の子(描写練習・男児)
黄色ばんだ肌に、日本人に多いとされる焦げ茶色の目の色、唇は薄くてほそいが、どこからどう見ても平均値にある日本人の子どもだ。髪は黒いが少し色褪せていて、グレー色に近く、色が薄かった。低学年の頃からプールが好きで夏休みにしょっちゅうプールに通うようになった、その頃から、彼はこのような髪色に変化したものである。色褪せたのだ。
足はさほど長くはないが細く、子鹿のような印象が、跳ねまわる姿を見かける、近隣の住民によって証言されることだろう。とかく元気で、じっとできずに走って駆けつける癖のある男の子だった。となると、かすり傷や生傷などは知らずにそこらにできて、絆創膏を貼ることも多いが、本人の生命力の強さによってこれまた自然と痕も残らずに治っていた。健康優良児の太鼓判を九割の人が押すような男の子。
残りの一割は、行儀の悪さを指摘したり、意外にナイーブな内面などを心配したりすることだろう。
ひとつを嫌がると、それにまつわるすべてがいやになって、途中だろうが放置するところがあった。
(あーあ。今日も緑のアレか! あーあー、あーあ。ママの悪魔!! あの悪魔め、おれの血が緑色になったらど~してくれんだよ。ばか!!)
単細胞、とクラスメイトが悪口を言うこともある。マザコン、なども言われる。しかし男の子は気にせず、今日も愚痴を口にしては吐き捨てる。
「うちのママ、まじで悪魔でさー、毎日、毎日、謎い緑のスープ? 飲ませてさ。おれの血が緑色になるまで飲ませる気ぃなんだよあれ!」
葉野弓実は、今日も、ランドセルを乱暴にガゴッ! と言わせて自分の机に叩き下ろした。
隣の席の女の子がびくりとして揺れて、横目遣いで弓実を覗き、じーっとそのまま凝視などしているのであるが、弓実は気づかずに自分勝手に愚痴を続けた。仲の良い男児が、なんだよ、と寄ってくる。
「また飲まされたの? つうか、飲むなよ。マザコンかよ」
「っせーな。うちのママ、悪魔だよ。アレは悪魔なんだよ! 怖さがわかるかおまえに! おれのママは悪魔なんだーっ!!」
隣の席の女の子が、やっぱり、じいっと弓実を見るが、弓実は今日も色褪せてグレーっぽくなっている黒髪を揺らして、2年A組の壁掛け時計をあおぎ見る。まだ時間あるじゃん、元気に叫んだ。
「おい、ちょっと外でようぜ」
「どこ行くんだよ」
「校庭の裏。昨日のセミ、死んでるかも。見に行こうぜ」
「こんの暇人~っ!! 10分しかねぇぞ」
「じゅーぶんだろ。ばーか!」
「おまえが馬鹿だろ!」
ぎゃいぎゃい、言い合いながら男児が教室を後にした。
2年A組の教室には、ほとんどの生徒が着席している。春美結愛もそのうちのひとりで、うっちゃられたランドセルをきらきらした視線で凝視している。彼女は姉が居て、姉の名は、春美美沙である。
春美美沙は6年B組であるが、結愛と違って『悪魔』である姉は、昨晩から母と一緒に『入院』をしていて今日は欠席だ。
みどりの、血、と、うっそうと静かに、人知れずに結愛が囁いた。
END.
(同キャラで話が継続してるのでそのうち、まとめタグをつけるかもです)
読んでいただきありがとうございます。練習の励みにしてます。