うさぎの青さは星の瞳

青い瞳のうさぎ、目の色がうつくしいので、夕飯用の罠にかかっても猟師の一人娘に気に入られて生き延びることができた。

瞳の美しさ、宝石みたい、なんてきれい、うっとりしては一人娘がブラウンの毛並みに顔をうずめる。
本当はシチューにされるはずが、今や、うさぎもすっかり、安心していた。うさぎなりに。くっついてくる一人娘に身を預けていっしょにすやすやと寝入る、日なたの時間が、ニンゲンと一匹の宝物になっていった。

しかし時代も病も残酷なもので、感情などは自然には要らぬものであった。
一人娘は病気似かかり、あっけなく命を落とした。

うさぎは一匹だけになる。

親たちは、残されたうさぎを、苦い目と渋い顔色で見つめる。
シチュー、ホットパイ、ミートソース、いくらでも今からでも夕飯にできる。しかし、もう用無しになったとともに、うさぎは、一人娘の置土産であった。

ここは、ニンゲンの分かれ道だ。
うさぎは、運命を作家に任された、立場の弱いモブキャラみたいなものだ。ヒロインは死んでしまったから、ヒロインのペットなどもう登場する必要がない。ハリーポッターだってヘドウィグを死んでいくのを見送った。

しかし、父も、母も、パイの準備はしなかった。

それどころか、オスのうさぎに、メスのうさぎを連れてきて、繁殖をうながした。
その子どもたちは、そりゃあまあ、パイにされたりシチューにされたり、それはそう。けれど、一人娘の宝物はニンゲンには消化されず、老いてもなお娘のいない家で面倒をみられて、死したときには墓がたてられた。

つがいのメスも、そうされた。
子どもたちも、数が多いから食われて減らされはするけれど、連綿と血は繋がれた。娘のいない、父と母が老いていくなか、うさぎたちは繁殖した。

やがて、母が先に死んだ。

父は、うさぎに囲まれて、かつての一人娘がしたように、白や茶の毛並みにつつまれて日なたで寝るようになった。

ある朝、そのまま夜になり、目覚めず、猟師の一家の血は途絶えた。

けれど、うさぎたちは、開けっ放しのドアを出て、自然に帰っていった。

その血は現代も連綿とつながり、継続し、一家の息子が子孫を繁栄させるみたいにどこかに。

あの家族の記憶を残して、今も、各地にて、生息している。

自然とは優しくも残酷で儚く、ニンゲンは、そうはなりきれぬ者がたまにいて、まるでおとぎ話みたいに信じることもある。

うさぎのどこかの一匹がたまに夢を見る。知らんうさぎ、知らん男の、夢だ。

『君たちは自慢のうさぎだよ。世界一美しい。その目でいつまでも我が家を覚えててくれ、息子たち、娘たち』

おとぎ話みたいな、夢だ。
うさぎは、そんなモノガタリも、夢も、まったく気にせず気にする習慣もないし、知ったことでは、ないけれど。

おとぎ話はしかし、続く。
連綿と。つぎつぎに。いつか、青い瞳と同じ色の惑星が、その生命を終えるまで。


END.

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