魚の大福もちに言う。

和菓子の父が新作に悩んでいる。うちの娘が、大福に目をつけようと言うと、父は喜んでこれを採用する。娘は先頃の夏祭りで獲得した金魚に夢中なので金魚の名前を大福につけたがる。父はこれも採用する。

「んじゃあ、魚の大福もちにしようかね」

魚のかたち。

私はそれを聞く。私は思う。

なら、足までつけたら?
不老不死の人魚伝説に習って足もつけて不老長寿のクスリにしたら? それをウリにしたらいいじゃない?

私は思う。でも、そんなの、おとなの浅はかなエゴでしょう、って。私は思う。娘にそんなものにすがるような大人になって欲しくない。不老不死、妖怪に憧れて、妖怪と結婚するような女には。

私は思う。私には、私だけが知る、墓まで持っていかねばならぬ秘密がある。娘の父親が誰なのか。私は思う。そんな私の里帰りを黙って笑顔で迎えてくれた父に、感謝を思う。

だから、秘密はたくさんある。
けれど私たちは幸せな家族と私は思う。幸福の尺度は、今度こそ、私が私で決めるんだ、私は強くそう思う。

「すてきな大福。おいしそう」

私は、笑顔でふたりに言う。


END.

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