不死身の虫けら、なり損ね

ときに人外とは、ヒトの理をまったく無視して知らんふりをするわけだ。

「肉をかじらせてあげてもよい。ただ今のわたしの気持ちを当ててみせてくれ。そうしたら、ヌシの悲願が叶うぞ」

ある岩礁にて、上半身だけは乙女の肉体をもつ、異形の魚類が告げた。
誘い文句にして別れのコトバでもある。

これ以上は、問答をせぬ、そう言外に報せてくる。
この逢瀬も最期なのだ。

しかし、正解はわからなかった。
そあ、知ったのは、これだろうと初めから予測できていた答えを教えてからだった。ニンギョはあざけって一笑とともに希望を踏みにじった。無い足でぐりぐり、と。

「夫がほしいから? 伴侶がほしい? 惚れた? ……バカを期待したとおりのバカだ。ここまでくると感心してやるわ。オマエとの会話なぞ泡がごとき刹那に過ぎん、なぜそこまで期待されると錯覚する? 愚か者め。だがな、そうでこそだ。期待どおりのまちがった答えだよ。数年して老いて死ぬがよい」

「ま、まってくれ!!」

叫び声にニンギョは笑う。オマエは、と、ニンギョは言う。

「答えなぞ、わからない。永遠に。気まぐれのなかにある真実を代わりに見つけてくれたら礼をやる、それだけの話だった。さらばじゃ、うつけもの」

「まってくれぇ……!!」

ばひゃ、無情に、しぶきがあがる。
こうして男は永遠のチャンスを永遠に失った。猫の気まぐれで生死を左右される、虫けら、みたいに。

虫けらの気持ちは、男にも、わからなかった。
しょせんは異なる生命だからだ。


END.

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