解体ラブスト-ショート-6
「沙耶ちゃんって虫も食べる?」
「好んで食べるつもりはないですけど失礼な質問だとは思わないんですか?」
「沙耶ちゃんならタンパク質って言いそう。虫も生きてるだろ。平等に食べてそう」
「偏見が激しいですね」
「…………でも極限に餓死しそうから食べられるな、その感じ?」
「…………そちらは食べないんですか」
「俺か。俺かー」
軍手にハサミを片手に、野草をチョキチョキして小分けしていきながら、しーさんは草についてた虫が飛ぶのを見上げた。
あとで虫編みでペシペシして潰していく。そんな虫たち。邪魔だから。
しーさんは、何を思うのか。笑って「今ならなァ……」などと含みをもたせる。沙耶ちゃんも食べるなら食べるよ、と、答えた。
「……………………」
(答えになってない)
ひきょうなひとだなぁ、そうも思えた。
やっぱり。生き方が違いすぎて? ただ他人だから?
私の気のせいもありそう。好きだ好きだと他人に言う割りに、しーさんはどこかどうでもよさそうな風向きを吹かせる。ともすると、相手が死んだとしたって、風が吹く方角が違うなら見捨ててきそうだし、一緒ならば単に心中してきそう。
しつこいのに。相反して、こだわりは、うすいようにも見えた。
(そう)
「かるいですよね、しーさんって」
「え、チャラいってこと? 俺の髪が長いから? 肩についてないけど。チャラいに入るの? 偏見じゃない、沙耶ちゃんこそ」
(命がかるい)
それも、仕方がなかったことではあるのだろうから。
しーさんの話やらお仕事やら、しーさんの言うがままが真実そうなら。
重いのだろうけど、当事者なんて立場になったら、軽く扱うしかない。私もそうだった。私も。昔。かつて。あの頃は。
だから、私から言うことなんて、特に、なにも無いんだけれど。
野草を切る。草を切る。草の、青虫みたいな臭いがする。
「ええ、チャラいってことです。しーさん」
ひど。へんけん。
他人事に呟いて、しーさんは、草の隙間から出てきた虫を、軍手の親指で潰した。
台所はしばし、チャキチャキとした作業音のみが、音を広げる。虫がまた飛んで羽音を響かせる。
静か、だった。
END.
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