魚は楽天家でなきゃつとまらない

魚は楽天家だ。脳の構造の問題もあるかもしれない。人魚姫が人間になりたいとつぶやいても、じっさいに陸に揚がってしまっても、まぁいつかは戻ってくるさ、おおらかに考えていた。

ところが、お姫様は帰ってこなかった。

海の泡になって消えた。らしい。魚は能天気だけれど怒らせると恐ろしかった。群生するワカメのような彼らは、海の魔女のもとにちいさな体躯を活かしてニュルリと潜り込んだ。それから、毒液をもつ魚が、チュルチュルと家中に毒を吐き出してからまたニュルリ、抜け出ていった。

魔女は顔面の皮膚がただれて喉が焼けて声がでなくなり、生死の境を10日ほどさ迷ったそうだ。

魚は、魚たちは、ぐうたらして、そんな報せが海のなかを駆けまわるときでも変わらなかった。魚たちにしてみれば生と死は常にある日常だった。だから、魔女が本当に死のうが生き延びようが、どちらでもよかったのだった。

魚たちはただ、優しくしてくれた人魚姫のぶんの死を報復したかっただけだ。それは果たされた。

「誰が毒を盛ったんだろう?」

「人魚姫の姉のうちの一匹じゃあ、ないか? 結局はダメだったんだからさぁー」

クジラたちがうわさをする。魚、小型魚群を食い荒らしながら。魚群をつくって逃げまどいながら、魚たちはほんの少しだけ安堵したという。復讐は叶ったのだ。果たされた!

クジラに食われそうだけれど。


END.

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