絆は傷があるから目立つ

きずな。絆と書く、ひとのえにし。これを人間はとても重宝する。

人間のほかに、人間以上に脳や視野が発達して、すでに6次元ほどの存在になっている化物なんて連中は、人間の絆を奇妙に感じる。自分たちは、絆なんて気にしないから。

連中は、人間の壊れやすさに目をつけた。化物が突けばすぐ崩れるし、化物が目の前にでていってあげるだけで、人間たちは虫みたいに走り出す。人間たちは脆くて崩壊しやすくて、吹けば飛ぶ、砂塵のようである。

しかし、ときに砂は固まる。水を混ぜたり、砂利を混ぜたり、加工して強固になれる。

魚が大群になって泳ぎ、個々を守っているようなもの。
化物は、ひとのえにしを、そんなふうに理解しようとしている。人間はほとんどが目に余る醜悪さを隠し持っているけれど、例えば人魚らしきものと思えばジュゴンなどを好き放題に殺したり、怪しき者とおもえば同じ人間なのに火刑にしたり、残忍な性質は人間連中のひとつの特徴であるけれど。

それでも、化物を前に、子どもを背にして逃げぬ親がいる。友を背に庇って戦う男、女がいる。

玉に瑕(きず)という言葉が人間にあると聞いて、化物連中のうちで流行ったことがあった。そうか、そうか。傷があるから、たまに珠のように美しい人間もいるもんなんだねェ、なんて、話をしたり。

化物のうち、何匹か、あるいは何百匹か、例えば童話作家が描くような人魚姫のような感性があるヤツなんかは、人間にひそかな憧れを持っている。玉に瑕がある、人間に惹かれている。

だから、たまに、化物は人間を娶ったり嫁入りしたりする。変わった話だけれど、人間だって、犬や猫と婚姻したい連中がいるはずだった。

玉に瑕。化物にも傷がついて、心に絆というヒビが入って、化物は人間と絆を結ぶのである。異種婚姻とどちらもこれをそう読んだ。

決してわるい話ではない。
けれど、なにせ傷のある話であるから、あまりいい意味では、言われない。

人間側にしても、化物側にしても。


END.

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