悪食の魔女の高級品

悪食喰らいの魔女は、悪夢が、大好物だ。ひと、どうぶつ、さかな、生きているものならなんでも食べられた。

しかし、特別に苦手な者がいた。人間のなかに。

夢に生きて、夢をあきらめず、夢に屈しない、夢の世界を信じている奴である。

彼、または彼女は特別で、人魚姫のような泡になる儚さがありながら、断崖絶壁を前にしても飛び越える勇気をもち、岩のように頑健だった。ほんとうに、たった一部の者が。

悪夢好きの悪食魔女でも、この連中だけは呑み込むことができない。この連中の夢ときたら年中明るい日の下で踊っているような陽気さ、それでいて静かに祈るほどの真摯ぶり、両極端でよくわからない味だし、そもそも悪夢を見ないから、悪食の魔女が夢をちょいとかじってそんな人間に当たったとき、泡になって消えるほど吐くのは魔女自身であった。

夢は強い。強すぎる。

しかし。

そんな人間が『堕ちた』あとの夢、は。
極上の、最高級のヒレ肉ステーキのようにとろける甘さと旨味が凝縮されているのだった。魔女は何度かだけその味を知っている。

はやく、はやく。
ああ、まだ食えない。まだ食えない。

悪食の魔女はもだえる。こんな魔女のエサにならないよう、夢を、信じたい、もの、だ。


END.

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