ミニクイ偏見と人魚姫

美醜はどこの世界でもある。美しい人魚たち。でもたまに、みにくい、嫌われる者もいる。それは、髪のウェーブがぐちゃぐちゃだったり、ウロコの色だったり、尾ヒレの形だったり。

美のなかの美、とびきり美しい人魚姫が、王子様に恋をして陸に揚がった。魔女との取引で声がきけなくなった彼女だが、満足はしていた。

運よくお城に拾われて召使いになれた。運よく王子様に見つけてもらえて親しくなれた。

やはり、わたしは人魚姫。人魚姫なのだから、他の皆とはちがう。

うつくしく、純朴な女ではあったけれど、人魚姫はいつしか自然とそう思う。人間で言うならば優越感、自尊心、自己肯定感などの感情が近いだろうか?

しかしあるとき。

人魚姫のそれは、ヒビ割れた。

「……!?」

「みにくいでしょ、あんた。大変だねぇ。ご苦労しなさって。さ、城のジャガイモだよ。みにくいけどガンバりな」

下町で買い物をしている。人魚姫は、呆然として『醜い』自分を考えた。

みにくい。

みにくい。

あれ、もしかして、王子様が仲良くしてくれるのにわたしに振り向いてくれないのは、わたしが、人間からすると醜いから、かしら?

人魚姫にすると電撃が落ちるほどの衝撃だ。人間と人魚たち、美醜の認識に、差があってもおかしくない。人魚姫は打ちひしがれた。やがてそれは失意に代わり、絶望に育ち、人魚姫を自己犠牲へと導いて彼女は海の泡になる運命を受け入れてしまうのだった。

だってわたしなんか。どうせ、わたしなんか。こんなわたしなんか、王子様との恋だって実らないし、海にも帰れないわ。

人魚姫はいつしか人間の目にうつる自分が醜いだけでなく、自分のこころまでもが醜い、と気がついた。そうなればもうだめだ。人魚姫はやがて泡になって消える。

さかのぼって、あの日の下町のジャガイモ売りのおばさん。

よろよろした足取りでくちがきけない召使いが立ち去る。それを見送って、となりでキュウリなんかを売っている同業人に声をかけた。

「かわいそうに。声がきけないんじゃ、きっと目も見にくいよ。見にくいのに買い物なんてして、かわいそうにねぇ。お城の奴らも気がきかないったら!」

……偏見と思い込みとそれにまつわる不幸、それは、どこにでも転がっている、のである。


END.

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