解体ラブスト-ショート-10

「くさ」

沙耶ちゃんは、勤務を終えて食肉解体工場から出てきて、セミロングヘアーはすでに結い上げてあった。学校がある日だ。

他の職員よりも早く出てくるから、ボクには都合がいい。
しかし沙耶ちゃんは、悪そうだった。

いつも。跋が悪そうで、いやそうで、ボクを迷惑がっていた。

「……それは……葉っぱですか? 脂ですか?」

「油」

「……あー、本当ですか……、自分じゃわからなくって……すみませんどうも」

「失礼な事言ってるの、ボクじゃないかな」

「それはそうですね。差別的……でも香害は申し訳ないですからね。今日は隅っこで丸くしてますよ。早く帰ることにして」

「沙耶ちゃんは頑張るね。帰ろうってならないの? 死臭だよ、要するに」

「当たり前に染付くものじゃないですか」

隣を歩くボクを見上げる、真黒い瞳は、いつわり、うそ、虚偽もなく、澄んでいる。

死まみれの臭いをさせる、女、であるのに。

沙耶ちゃんは生きてるんだよな、ボクは、当たり前の目の前の現実を、今日もまた、確認した。
それからホテルに帰った。

なにしにきたんですか、数分の会話で別れを告げるボクに、沙耶ちゃんは、本当に不機嫌そうに、呟く。


END.

読んでいただきありがとうございます。練習の励みにしてます。