氷界面のイットとは

氷の微笑、古典の映画を思い出しました。釣り船のうえで。

セイレンと呼ぶか、人魚姫と呼ぶか、魔女あるいは怪物、異形。その女の顔をしているもこは氷の微笑のふとももをねっとりこすり合わせるさまに、似ている。肉肉しく生生しくセイキをも思わせる、くちびるの笑い方をしている。

ぺろりとあかい舌先が除けば、下着か、その最奥か、粘膜が露わになっている事実を如実に突きつけられた。

海面、いや界面には濃霧が漂う。ここは今、海のうえではなくて、異界への入口だ。

ツリビトたちは皆、ソレに視線をくぎづけにされて、縫いつけられた。皆、私も含めて。氷の微笑のふとももを摺り合わせて足組をしてみせるあのワンシーンから目が離せない、それと同様に、あの異界生物の微笑みから逃れられない。

船長が決断した。エンジンがかかり、ノロノロと船はソレに近づいた。

イット。少し前の流行り映画。それを思い出した。くちがぐぱりと空いたから。

ぐぱりと船が粘膜に包まれて、私たちは吸引されていった。ソレの最奥まで。胃袋まで。あの氷の微笑、あの映画、イット、どれも異界生物の目的は相手の捕食であることを思い出す。それが、最後の記憶となり、あとは熱い粘膜に包まれてなにも考えられなくなった。あつい。あつい。溶けそうだ。

手が、体が、消化されてゆく。熱く熱く蕩けていく。氷の微笑とはちがって、イットとは違って、やさしい暖かい最期。

映画ではなくて、本当の生きものだから、思いやりでもあったのだろうか。
わからない。わからにい。とける。とける。


END.

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