知らなチ幸せ

知らないほうがしあわせ。世間に塵ほど積もる、真実のひとつだ。隣の芝は青く見える。それも、知らないからだ。真実のひとつだ。

ミオはこれを知っている。だから、知らないことをポリシーにしている。無知でなにがわるい? 無知だからこそ、アタシって、最強になれる。ミオは、自信に満ちた、自己肯定感に溢れた少女だ。見の周りの女たち、男たち、生きもの、童話、それを見て読んでの学びであった。

いびつな、歪になりすぎた学びであった。ミオはやがてそれが猛毒であると気づく、必定にあった。なぜなら無恥とは若さに比例する武器であるからだった。

まだ若いミオは無敵である。知らないことを知っているから、ミオは無敵だ。
けれど、それが長続きしないことをミオはまだ知らない。

自分が齢を重ねてようやっと少女は育つが、そこに大人の彼女も老婆の彼女もいなかった。少女の姿を失った、少女ではなくなった少女の心をもつメス性のなにか。それがミオの育った姿であった。

知っている者は、たくさんの失敗をしているので知っている。知識こそが武器と。しかしミオは知らない。なんにも知らない。だから怖いものなしのミオ。知らないことを知っているのが武器と。

時間と老化は残酷で、少女の心もまた残酷であった。少女は永遠に少女でいたがるものだった。それが、少女の特徴だ。

ミオは、ずっと、何歳になっても少女として育った。

あの人は頭がちょっと弱いね、と、ある、同窓会の日、ミオの友人だったはずの三十路の女が呟いた。周りの女もにがみばしった笑い方をした。まだ少女のつもりのミオの洋服すらも、まだ、少女であった。

でも、ミオにしたら、ミオは最強だ。最強のままだった。
なにせ、知らない。
なにも知らないから。

どちらが幸せか、たぶん、それは主観による話。
ミオは最強にして最弱、少女であった。
三十路のひらひらした服の女の少女であった。


END.

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