聖夜には奇跡は起こる

クリスマスの朝にプレゼントがあることに、彼女はとても驚いた。なにせ彼女は、海からやってきた、人間ではない異邦人であった。

赤き靴下に、チョコレート菓子が詰めてあった。小さなブレスレットの金具もでてきた。

異邦人の正体は、人魚姫。
王子様に恋して魔女と契約して陸にあがってきた、類稀なる異端のモノである。

今は、城に潜り込み、下働きとしてメイドをやっている。声を魔女に奪われたから、こうするのが、人魚姫のせいいっぱいである。
聖夜にはプレゼントをするのね。だから昨夜の夕食は、わたしたちも豪勢だったのかしら?

人魚姫は、靴下をひっくり返して、メッセージカードに気がついた。そう。サンタクロースなどいない。聖夜のプレゼントは、だれかの気持ちの塊なのだった。

カードを読んだ人魚姫は、

二度目の恋に落ちた。

『あなたを愛しています。
ブルック・ハワード』

それは、ともに働く、男の給仕である。同僚のパッと見は冴えない男だ。そんなことは異邦人である人魚姫にはどうでもいいことだった。人魚姫は、震えながらペンをとって、靴下のなかに返事を入れた。きれいな貝殻を浜辺で拾うのが好きだから、とっておきの貝殻をプレゼントにした。

給仕のブルック・ハワードは、その日の午後になる前に、声をしゃべれぬ美女から赤き靴下のプレゼントを受け取った。
街は王子様の婚約騒ぎと聖夜に浮かれている。

しかし、恋多き女には、もはや関係ない。
奇跡は起こる。

人魚姫は、こうして、想い人と結ばれた。
予定とはちょっと違うけれど、愛があるから、まちがいはない。聖夜の奇跡である。


END.

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