僕のジュリエットの死

僕のジュリエットが死んだ。いや、ほんとうは、ジュリエットなんて彼女の名前ではなくて、『ロミオとジュリエット』におけるジュリエットの献身に感銘を受けた僕が勝手に彼女をそう呼んだ。

遠回しにいえば、彼女は、そういう僕のせいで死を選択したのだろう。喉を一突きして絶命したらしい。僕との婚姻が決まって、僕の贈った手紙を読んで、自室にこもったと思えば、彼女は朝には喉首を食卓フォークで貫いて自死していたらしい。ああ、僕のジュリエット。なんて無様な死にざま。

それこれも、すべては僕のせいだ。そう思うと、僕はやはり彼女を失った喪失感にうちふるえて今も涙が目に浮かぶけれど、同時にほのぐらい喜びに支配される。僕のこういうところが、彼女を死なせ、彼女にどうしても僕に抱かれたくないという強い願望を抱かせるにいたったのだろう、そう思うと、正直言って僕はとてもゾクゾクする。

ああ、ジュリエット。ジュリエットだ。彼女はほんもののジュリエットなのだった。まっすぐに破滅に突き進んで転げ落ちるように死んでしまう。
彼女は、死んだことで僕の理想を具現化させた。

ミドウハルカという名前が元々の名前だったか?

僕は、訃報を報せてきた伝書鳩を膝に乗せて、ベルベットのような滑らかな毛並みを撫でてやりながら涙しては、美しく整えてある庭を眺めていた。宮廷の中央に噴水が据えられて、薔薇のアーチが設置されて、白い花を咲かせる茂みがうっそうと庭を囲っている。とてもいい匂いのする庭だ。
自慢の庭を目にしながら、気分良く涙しながら、彼女の死にとても満足している僕は、やっぱり到底、彼女には受け容れがたかったのだろう。

「正室に迎え入れてやってもよかったんだけどなぁー」

ハレムの女たちを思い出しながら、ジュリエットを陳列できなかったことを悔やんだ。いちばんお気に入りになっただろうに。



END.

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