星見のお姫さま(男)

おまえ、もうお姫様ってことにしとこう。そのほうが評判いいからな。

村長の呟きにより、ミチオは瞬間、女性として生きることを余儀なくされた。星見の才能があり、天候を読む観察力とそれをうまく人に伝える誠心さがあった。それがため、ミチオは今や、神職を与えられた。

さらに、こういうのは普通は女がなるものである。醜聞になりかねん、村長は言う。そんでこうだ。

ミチオはシルクの薄い帳に隠されて、喋らずにうなずくだけ。伝聞役の巫女が仲介に入って言葉をしゃべるが、ミチオの意志はそこになかった。村長の意思はあるのだが。

(まぁた、勝手なこと言いよって……)
たびたび、そう思うが、しゃべれば男とバレる。ミチオはだまってしゃなりと手つきや身動きに気を遣う。

そんな毎日であった。

「それって美味しいの」

ミチオの後背から声がした。後ろは、海だ。ミチオが逃げられないように。海から声。

ふりむくと、岩にかじるように、ちいさな乙女がミチオを覗きみようと体をねじっていた。その体は、半分が魚でできている。
しかし、乳房はあって、そこよりうえは可憐な少女であった。濡れたての彼女はふしぎそうに「ずっと見ていた」そう話す。

「いつもは気にならないの。でも。ちっとも美味しそうな気がしなくて、あなた、ツライのかと思って。ちょうど私たち人魚はもうすぐ繁殖期なのよ。男の人魚は、生まれないから、外から連れてくる。あなたなら私はイイなぁ、だから見てた。美味しそうだから。でも肝心のあなた、ずっと、あなたは美味しい味なんて忘れてしまっていそうで。大丈夫? ねぇ。人魚になってみる? 私たち、繁殖期になる。私たち、抱いてくれる? 多分美味しい。美味しそうな男しか選ばない私たち、でもとってもキレイでしょ。どうする」

覗き見する、青い瞳のしたで、ぷっくりした唇が尋ねる。

「どうする?」

……夜のくらやみに、ポッチャンと大きなものが界面に吸い込まれる音がした。
あの村では、お姫様が亡くなった、星になられたと、3日後ほどしてから噂が流された。


END.

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