厄介客ばかり魔女屋ら

魔女は海の奥底に隠れて住んでいる。性格が悪いから、悪性の生きものだから、魔法が邪悪なものだから、そんな憶測がウワサになって、ウワサの真偽は誰もわからないからいつの間にか真実と見なされる。

魔女はワルイやつ。
会ってはいけない、邪悪な女!

魔女は隠れて住んでいるくらいだから、ウワサを正したり反論したりはしない。言わせっぱなし。魔女はむしろこれで良しと喜んでいる。これなら、訪問客は少ないはずだ。

それでも、人魚姫やら、ウツボやら、訪ねてくるものは多いのだった。魔女の魔法を信じて、悪性を信じて、魔女を頼ろうとする。
すると、魔女はなにやら要求をして、探求者の願いを叶える。叶えてやる。魔女は決して邪悪ではなくむしろ天秤の裁定者のような厳格な女がなるものなのだ。
魔法を管理するのだから、そうした性質のものが最適とされるのだ。

けれど魔法とは現実をゆがめるもの。

魔法をかけられた者は、たいていが転落の道をゆく。

魔女はそれを知っているが、求められれば断れない、心優しい平等な性格をしているものだから魔法を授けてしまう。 

だから、魔女は、海の奥底で隠れて住む。目につかないよう、誰にも会わずに済むよう。ウワサなんて放っておき、魔女自身と魔法を守るために隠れているのだった。

魔女の心、皆知らず。

魔女の隠れ家のドアを叩く音。誰かがしつこく見つけて家にやってくる。執拗に、悪魔のように、邪悪なものたちのように、魔女は常に追われている。

『どちらが悪者なんだか。わかったものか。自分勝手に生きてる奴らの相手なんてしたくないんだ』

魔女は、魔女の集まりのサバトにはたまに出かけるが、そんな話題が中心になる……のだった。そこでは皆、苦労を分かち合うものだった。心優しく慈悲深く、勉強熱心なおだやかな女たちの、ささやかな集まり。

魔女の心、誰もが知ろうとせず。
魔女に興味はなくて魔女の使う魔法にだけ、誰もが、興味と用事がある。

魔女たちはため息を吐き、引っ越し場所の相談やら、あたらしい秘密の場所を教え合う。いたちごっこの鬼ごっこ。

鬼とは無論、人魚姫やら、ウツボやら、魔女の魔法を求めてやってくる勇気ある連中だ。本末転倒よ、ある魔女は言った。

本来、魔法はそういう者に与える為にあるのに、魔法を頼るときにはすでに大抵がゆがんでしまっているのだ。

魔女たちは、シンデレラの話が好きだ。
「ああいうの、いいよねー」
「理想の仕事だよー」

善良な女たちの、世間話である。


END.

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