柊さんに好かれてないらしい

「柊さん、あたしのこと、好きなんですか?」
スマホをいじくりながら質問してみる。目線は、もちろんスマホにあるので美代は柊アタルの表情の変化などは目撃しなかった。

どうでもいいからだ。

「とつぜん、どうしたの? 美代ちゃんてば、もう! なにいってんのよもう! アタシみたいのを捕まえてさぁー、そんなこと言う!?」
「すみません。いえ、そんな気、ふとしたので」
「アタシ、こんなやつよ?」

美代はやっと額をあげる。
目の前。ファミレスで相席している相手は、男性の骨格をしているが、こぎれいなAラインワンピースを着てそれにスキニーパンツを合わせていた。化粧が上手で、美代とは比べられないほどだ。美代はうなずいた。
「柊さんとはオカマバーからの仲じゃないですか。もちろん、知ってます。当たり前じゃないですか」
「なのに、アタシが? 美代ちゃんを?」
「そんな気、したもので……」

小声になっていく美代は、肩身のせまい思いをする。柊アタルは、片方の眉をあげて美代をみおろし、テーブルに肘をついた。きゃっ、と、オカマの典型的な甲高い声とよろこびかたをやってみせた。
「きゃあっ! もしかして恋バナ!? しかもアタシに!? 美代ちゃんってば!!」
「そんなつもりはありませんよ」
美代は、困って儚くほほえんだ。柊がまぶしそうに後頭部をそらした。

「うっ! さすが、ウチのバーの男装担当ね。美代ちゃん。美青年だわー、ほんと。顔はタイプよ美代ちゃん、ほんと」
「そうなんですか? ありがとうございます」
美代はとりあえず礼を告げて、目線をスマホに戻した。ソーシャルゲームの周回なんぞやっていて、オート機能をオンにしてあるが、進行の確認ぐらいはこうしてやるのである。

「でもあたし、今日はスカートですよ。柊さんとちがって、ただのコスプレですし……。たった数ヶ月とはいえ、面白いバイトでしたけど」
「ちょー似合ってた。美代ちゃん、男の子ならモテモテよ!」
「それ、女のあたしとしては複雑なんですけど」
「アラヤダ。そんな意味じゃないわよぉう、男の子ならもっと! って意味よ! それに、美代ちゃんは美代ちゃんなんだから。性別なんてアタシにはどうでもいいわ」
「好きなんですか? あたしのことが」
「ちがうわ」

美代がまた目をあげる。柊アタルも美代をみおろしていた。2人の視線は、ファミレスの片隅でぶつかりあって拮抗した。
視線を先にはずしたのは、美代だ。
どうでもいい……、ような、気がやっぱりした。

「です、よね。柊さん、性的嗜好もそちらなんですよね? 男のひとが性的対象って聞きました」
「そのとおりよ、美代ちゃん」

オカマバーの花形バーテンダー、柊アタルは目を細める。まじまじと数ヶ月前までは同僚だった、あたかも美青年のような整った顔立ちの、美少女を観察した。――低くなったトーンが問うた。
「まさか、それがバイトを辞めた理由なの……?」
「え? ちがいます。目標金額が貯金できたからですよ」
「あらそう? それはよかったわね」
「はい」

微妙な、男女の駆け引きのような緊張した空気が流れた。美代は錯覚だろうかと思うのだが。
柊アタルは、美代を見つめては、なにやら、意味深に肩まで伸ばしてある地毛を手で摘まむなどしていた。どうでもよさそう、と聞こえたから美代は顔をあげて柊アタルをちゃんと真っ正面から見た。
「大学進学おめでとう、美代ちゃん」

「…………、はい」

(好きじゃないなら、この、何か変な違和感は……。あたしが柊さんに好かれてないから、なのか?)

恋愛にうとい美代は、そんなことを考える。
柊アタルは上手な化粧をして、ワンピースを着て、ヒールのあるパンプスを履いて、骨格がちょっとがっしりしてはいるけど今日も美女だ。



END.

読んでいただきありがとうございます。練習の励みにしてます。