魔女、蟹御殿

カニがわらわら、無限にいるかのように、縦横無尽に歩き回る。人間なら豊作を喜ぶところだ。しかしマーメイドは此度の大繁殖に迷惑をしていた。

尾ビレをはさまれる。邪魔。うっとうしい。なんか汚い。邪魔、邪魔、邪魔!

ある一匹のマーメイドがついに無謀と無知の合わせ技ゆえ、魔女の棲家に向かった。
貴重な願いごとはバカなコトで消費された。

「魔女さま、カニを、カニどものわんさか湧いたのをどうにかしてください!!」 

「……いいよ?」

魔女は、ちょっと片眉をあげて、正気か? という表情。
それでもしっかりと代償として阿呆なマーメイドから視界を奪った。カニが二度と見えなくなるように。マーメイドは、あらまあ、ありがたいわ、と嬉しがった。価値観は生きものそれぞれなのだった。

数日して、海から出た地上では、アシナガガニの叩き売りをするお婆さんが頻出するようになった、と、いう。
とても脚のながい、立派なカニばかりだった。婆さんは籠にカニをわさわさ積んで、毎回、どこからともなく現れて、半年ほどかけてカニを売りさばいていった。

半年すると、婆さんはある日、これで最後、と言ってちいさなカニたちを売った。
これで来年の人間のカニ漁の漁獲が減るだろう。まぁそこまでは、魔女の知らんことである。

END.

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