パステルブルーの朝の話

こんなはずじゃなかったんだけどな、僅かばかり明るくなり始めた空を背負い、鍵を差し込んでドアを開くと、なぜか灯りが漏れてきた。まって電気消さなかったっけ、最悪。溜息と共に肩を落とし、『ただいまあ、』一人暮らしでも癖になったコレ。腑抜けた声は空間に溶ける、「おかえり、」溶けるはずだった。『え、?』「いやなんでって顔すんな」『…来るなら、言ってよ』首を傾げてから、「言わずに来たらダメ?」なんかやましいことでも?と続ける。少しキツく感じた言い草にそんなことあるはずないのにと眉間に皺を寄せてしまう。女友達3人に愚痴に付き合ってもらっていただけ、それが少し長引いてしまっただけ。胸の中にしまい込もうとしたのに何故か歪むわたしの視界。見られたくなくてアウターさえもそのままに抱きついた。遠慮がちに腰に回った腕。慰めてもらいに出かけるはめになったのは誰のせいだと思っているの?なんて言えやしない。『…言ってくれたら、もっと…もっとはやく帰ってきた、のに、』絞り出した声はちゃんと届いたのか不安になるほど、想像以上に震えていた。それはどうだか。え、まさか寂しかった?なんて戯けたようにいう彼に、『…寂しかった、』と呟くと、少し間が空いて、そして深い溜息をつかれた。ああ、呆れられちゃった?時間が解決してくれるかな、手遅れかな、なんて頭の中を駆け巡る。「…、ほんとは、結構不安だった。」「帰ってこなかったら、むしろ誰か連れて帰ってきたらどうしよって思ってた。」予想に反する言葉と共に腕の力は次第にぎゅうっと強くなる。心臓がきゅうっとなって、頬が熱い。『あり得ないし、そんなん。』ぐりぐりと頭を彼の方に押し付けて、痛い痛いと彼が笑って。馬鹿らしくてなんだか安心してしまった。曇りガラスから透けるパステルブルーの空を横目に、今すぐこのアルコールの残り香を洗い流して、この世界で1番安心する香りに包まれてゆっくりベッドに沈みこみたいと思った。そして起きたら、お願い事を1つ、いや2つ叶えてあげようと誓った朝6時。

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