ペールアイリスと共に歩む話

梅雨は好きじゃない、とみんな口を揃えていうけれどわたしはこの季節がとてもとても愛おしい、と、少し気取ってみる。

ちょうど2年前の今日、雨の中2人で傘をさして、紫陽花の咲く道をてくてくと歩いて。少しして雨が止んで、晴れ間がさしたとき、彼はわたしに向かって、すき。とつぶやいてくれた。突然のことにぼんっと顔が赤くなったこと、そしてそんなわたしをみて、彼も同じようにぼんっと顔を真っ赤にしたこと。雨に濡れた紫陽花がきらきらしていたこと。恥ずかしくて俯いて、淡い紫のパンプスをじっと見つめたこと。全部全部、まるでシャッターを押して切り取ったかのように、鮮やかに、しっかりと、記憶に残っている。

『晴れたねえ』「んね〜」間延びしたわたしの返事にくつくつと喉を鳴らして笑った。
ちょっと待ってて と、ここを離れた彼を待って約5分。もう2年かあ、まだ2年だよ、なんて言いながら2人で思い出の場所を巡って、今に至る。
「あ。」ごめんごめん、と笑いながら戻ってきた。その手には小さな花束。「、ん?」『2年前、わたしもって言ってくれてありがとう、』「え、?うん、」『一緒にいてたのしくて、嬉しいこと、1番に話したいし、悲しいことがあったら、そばに居たいと思う、ずっと一緒に、いたい』「うん、」たどたどしく、言葉を選ぶように話す。『だから、』すうっと息を吸う彼。一段と顔がこわばったように見えて、「だから?」ついそう、急かしてしまった。ねえ、ペース乱さないで、とくしゃっと笑うから、わたしもつられて笑ってしまう。はあ、深く息をはいてから、『今日からは、結婚を前提に、おれと一緒にいて、』花束をずいっと前に出しながら力強くそう言われて。「うん、!」わたしも同じように力強く返せば、安堵して涙目になる彼をみて、ああ、そういえば2年前のあの日も、わたしが俯いた顔を上げて、「わたしも、」と返した時、彼は目を赤くしていたな、なんて。

来年も、再来年も、またふたりで泣き笑いできたらと、何度もこの紫陽花の咲く道を肩を並べて歩むことができたらと、なんともドラマチックなことを考えてしまった。

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