オレンジに包まれる話

なんとなく頬がくすぐったいような、そんな感じがしてじわじわと目が覚めた。夕暮れの日差しが差し込んて、彼の瞳を照らしている。
起こした、ごめんと眉尻をさげて苦笑いをする彼の手を掴んで引っ張ると変な声を上げた。そのまま自分の頭の上に乗せ、『撫でて、』蚊の鳴くような声で言うと彼は『なに?寝ぼけてんの?』と目をまん丸くした。
疲れていたのか、たまたまそんな気分なだけなのか、らしくないのは百も承知だけど、甘えたくなった。
息苦しくなるくらいに抱きしめて欲しくて、子どもをあやすような声で名前を呼んで欲しくなった。けれど、そんなこと言いだせやしない意気地なしで天邪鬼なわたしなりの、可愛げのない精一杯のアプローチを彼は受け止めてくれだろうかと、今更少し不安になる。
そんな不安もつゆ知らず、なにそれ かわいいんですけど と口元に反対の手を寄せてくすくすと笑う。恥ずかしくなって顔を背けるとするりと動く頭の上の手。心地よくて暖かい。んー?どうしたー?といつもより甘い声がして、ぐいっと上体を起こされる。わたしはソファの上、彼は下で向き合う。『…なに?』また可愛くないわたし。おいで、と手を広げられる。しぶしぶ…嘘、本当は嬉しくてしょうがないけど、それを隠してゆっくり飛び込む。ぐいっと腰を持たれてぐるり。
わっと声を上げた時にはソファに彼がすわっていて、その腹の上に乗っていた。なんだこれ、そこまでのことを求めてたわけじゃない、と離れようとするけど、充電、しよ。わたしの後頭部と腰に手を当てながら身体を摺り寄せる彼。
きっと彼には全部お見通しなんだろう。
ただ頷くだけ、声も出さず彼の首に腕を回すわたしに、だからなんか言え、とまたくすくす笑う彼の声が右耳を刺激して、なんだか心がふわりとした。気づけば夕日は沈みかけていて、部屋は暗いオレンジに包まれている。もうすぐ何も見えなくなって、そしたらちょっとだけ素直になれるような、そんな気がした。

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