名前も知らないお兄さん、ありがとう
「大丈夫?頑張れー!」
なんの変哲もないこの言葉。
発した人は全くの知らない人。
自分に大いなる勇気を与えてくれた。
+++
小学生の頃、将棋が得意な友人がいた。
影響を受けて自分も将棋を始めた。
千駄ヶ谷の将棋会館に行って年配の方と打つこともあった。
いくつか階級があって、勝利数が増えると級もあがった。
興味を持って、本や試合も見始めた。
5級ぐらい上がった。
でも昔からやっている友人との実力差は埋まらなかった。
学校の文化祭。
その友人を対決した。
飛車角落ちという大きいハンデをもらって。
自分なりに考えながら攻めるもどんどん状況が悪くなる。
駒を取られに取られ…焦る気持ちばかり。
気付いたら残っているのが、金と王のみとなった。
詰みにはしないように友人は遊んでくる。
それでも続けた。
「まいりました」
の一言を発するのが悔しかったから。
気付いたらギャラリーが増えている。
引くに引けなくなった…。
最後の金も取られて王のみになった。
面白がる周りからは友人へ
「やめてやれよ~」
と声をかける。
友人が少なかった自分への声援はない。
代わりにもらえるのは哀れみ(と思われる)目だけ。
泣きそうだった。
もうこの場から離れたかった。
ふと観戦しに来た工学園のお兄さんが一言。
「大丈夫?頑張れー!」
もう…ね。
さらされて恥ずかしい気持ちが吹き飛んだ。
この覆ることののない逆境を楽しもうと思えた。
零れ落ちそうな涙は笑顔によって消え去った。
颯爽と現れたそのお兄さんは話したこともない。
名前も知らない。
そんな人から。
こんなにも勇気をもらえるとは知らなかった。
+++
その時から20年近く経つ今。
いまだに覚えている。
人にやさしくありたいを思う原点となった。
いつしかお礼言いたいなぁ。
もう忘れているだろうけど笑
いつしか知らない人へは声をかけづらい世の中になった。
ご近所付き合いなんて言葉も少なくなっていった。
そんな今だからこそ。
困っている人がいれば声をかけたい。
「大丈夫?」
この一言に救われる人がいるかもしれないから。
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