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1話:真冬の南伊豆で水仙まつりと地魚船盛りの旅

「日本の旅と風景印の物語」をテーマに、日本各地の旅紀行を綴っていきたいと思っています。
初めての1話目を書くのでワクワクしています。
今日は、昨冬のお話になりますが、どうぞ読んでください。



ちかごろ、西伊豆の松崎がマイブームだ。
何故かというと、たまたま1本の伊豆松崎での旅行動画を視ていたら、それが「伊豆めし」とかいうシリーズになっていて、やけに面白くてハマったのだ。是非とも行きたい宿のナンバーワンが伊豆松崎の民宿◯浜荘だった。

宿を予約して迎えた出発の日。
あいにく朝から曇天で、雲行きは怪しかった。
(せっかくの水仙まつりなのに、雨かよ‥‥)
雨具も用意して車を走らせた。
道路のほうは、「真鶴ブルーライン」や「熱海ビーチライン」を使わず一般道を走る。平日なので時間はさして変わらないし、急ぐ旅でもないのだ。

今日の見どころは、伊豆下田の爪木崎が会場の「水仙まつり」。
ここ爪木崎は、灯台が立っているくらいだから断崖絶壁で、岩場があり砂浜もありの景勝地だ。
そこに野水仙の群生地があるという。
行って見たら驚きだった。
広大な野原が、全部水仙で埋め尽くされていて、何万株何十万株あるのかわからないほどだ。

これは比較的ヒトの手が入ったエリアで、会場の中のほんの一部
ここから背面側の丘の斜面の方には、広大な水仙の絨毯が展開していた
(そちらは水仙しかないので、写真の画としては退屈)

散策コースが巡らされていて、そこを歩き回ると水仙だけでなく、アロエの赤い花も評判通りの見ごろだ。
それだけでなく、柱状節理が見られるという「俵磯」や「ヴァンダリア断崖」、そして岬の突端に立つ「爪木崎灯台」など、想像以上の荒磯とそれを囲む大海原は、ひさびさの大自然パノラマだ。
ここでは、あまりにも歩き心地のいい(眺めもいい)散策路のとりこになって、気がついたら8千歩も歩いていた。

ぱらぱらと小雨が落ちてきたので早めに撤収。
次に狙うのは、下田の町なかにある小さなケーキ屋さんの◯ャルマン伊豆。
ここも「伊豆めし」からの情報で、素朴だが手作りで美味しいうえに、激しく安いお店なのだという。
ここでケーキを仕込んで民宿に持ち込み、夜更けに小腹が空いたころ、いただく。

さて、このあたりで今日の風景印をいただこう。
下田の町からさらに南に走り、弓ヶ浜に向かって道を折れると程なく、平屋建ての小さな郵便局があらわれる。
竹麻(ちくま)郵便局だ。
今日は水仙まつりが心に残ったので、水仙の切手を探す。
あった、しかし52円切手なので不足分を貼らねば。
季節が若干ズレるが、白いツツジの切手があったので、それにする。

年配の局員さんが完璧に押してくれた
絵柄は美しい弓ヶ浜に、地産の伊勢エビ(伊勢じゃないけど)とタケノコ

せっかくなので、弓ヶ浜に立ち寄ってみよう。
竹麻郵便局から車でほんの少し走ると、すぐに海に出てしまう。
ここが弓ヶ浜だ。
なにしろ、雨が降って来てしまったので、とりあえず停めた車の中から海を眺めて、ひと休みだ。
こんな雨が降る真冬の海に、サーファーが2人浮かんでいる。
物好きだなぁ、若い人はすごいなぁ‥‥
勝手な感想を抱きながら、海を眺める。
と、しばらくすると2人のサーファーが海から上がって来て、こちらのお隣に停めた車のテールゲートを開けて、荷物を整えたり、持参した水をジャブジャブ浴び始めた。
帰り支度とはいえ寒かろうに。
ウェットスーツを着ているとはいえ、足先は素足だ。
見ているだけで風邪ひきそうだが、そのカップルとみられる男女はキャッキャと笑いながら、いたって愉しそうだ。結構なことだ。
車の窓越しに、眺めるともなしに眺めていたのだが、あれれ?!ウソだろ?

よく見ると、その男女は、白髪まじりの熟年夫婦だった。

衝撃の弓ヶ浜に別れを告げ、今度は山回りのルートで走って伊豆松崎へ向かう。雨が本格的に降り始めたので、このあとの散策は中止。
だいぶ早めに民宿◯浜荘に到着してしまったが、部屋に通してもらったあとは、さっそく風呂に入って冷えた体をあたためたい。
この民宿のいいところのひとつは、小さいがいくつかある風呂を、家族で貸し切り利用できる点だ(もちろん無料)。小さいと言っても6人くらいは入れそうな岩風呂だ。タップリ深い湯船(源泉かけ流し)につかって手足を伸ばすのは格別。

天気さえよければ、近所にある「石部(いしぶ)の棚田」まで登って日没を眺める予定だった。
あいにくそれも叶わず、入浴後は、部屋でポカリスエットなど飲んで、夕食の時間を待っていた。
が、ふと、障子を開けて外を見た。
いつの間にか雨がやみ、雲の一部が途切れて、日没後の夕焼けが、入り江の山肌をサーモンピンクに染めているではないか。

部屋の窓からの景色
雨上がりの空に虹がほんのひととき、これは吉兆!

いつもよりゆっくり流れる時間をしばし楽しんだ。

そうこうするうちに、部屋に食事が運ばれてきて、座卓の上にとりどりの料理が並んだ。
なにより楽しみにしていたのが地魚の舟盛り。
乗り合い舟の乗客は伊勢エビ、金目鯛、あわび、近海の鯛数種、近海の鯵数種。この他にかさごの丸揚げやサザエつぼ焼き、大海老のチーズ焼き、蒸し野菜に天ぷら、山芋や茶碗蒸しなど、そしてごはんは棚田米。

乗客はすべて西伊豆の地魚たち

どれもこれも美味しく1時間以上かけてゆっくりいただいたが、やはり捌きたてプリプリの甘~い伊勢エビが忘れられない。

夜は座卓でのんびりと書き物。
これが至福の時間で、ペンを握って旅の出来事に思いを馳せていると時間が経つのを忘れる。
そうだ、夜も更けたことだし、◯ャルマン伊豆のケーキを出して食べよう。
熱い煎茶を淹れて、誰に気遣いもなく、甘いひと時を味わった。

すっかり日が暮れてから、宿にたどり着いたチャリダー(自転車で旅をする人)がいたらしい。夜の民宿の玄関に、雨でびっしょり濡れたサイクリング車がひっそりと1台置かれていた。
民宿の玄関が広いとはいえ、自転車が大切なものとはいえ、外の駐輪場ではなく内玄関に置くようにした、宿の配慮をあたたかく思った。
そして伊豆半島の辺境まで山を越えて自転車をこいで来たのは、どんな若者だろう、すごいなぁ、冷たい雨に打たれた体を、大きな湯船であたためてくれたかなぁ‥‥、などと夢想した。
いつもよりだいぶ夜更かしをして布団に入ったが、なにやら愉し過ぎて眠れず、波の音を聞きながらかなり長い時間、目を開けていた。

翌朝は快晴。
部屋の窓からは、入り江のむこうに富士山が見渡せた。
あまりに美しいので、何枚も何枚も写真を撮ってしまった。

たくさん撮った中の1枚
安いスマホのカメラとは思えない、自分史上最高の富士山写真

朝の食事も部屋出しだった。
民宿らしい小鉢がならぶ中で圧巻だったのが、昨夜の伊勢エビの頭部を使ったかしら汁。唐竹割ふうに真っ二つの頭部がごろんと入って、ものすごいダシが出ている。不意打ちを食らったような旨さだった。
そして棚田米がおいしくて朝からおかわり。

地魚の船盛りはじめ、おいしい料理でもてなしてくれた民宿◯浜荘に、会計を済ませて帰路につくとする。
宿泊料は、今回は特別な注文は無く大人1人11000円(消費税込み)。

駐車場に行くと、昨夜の自転車があって、近くに男性が立っていた。
同宿のよしみであるから挨拶でも、と思い近寄って行ってみた。
すると、なんと、こちらも白髪まじりのオッサンではないか!
いまどきのシニアはどうなってるんだ?!(伊豆だけか?!)
これから三島へ行くと言っておられた。

こちらも三島に向かうので、車に乗り込んでお先に出発した。
西伊豆の海岸線は富士山が見え隠れする絶好のドライブコースだ。
ちょっといい展望スポットがあったので、車を停めて写真など撮っていたら、さきのチャリダーに追い越されてしまった。
オヌシ、なかなかやるな。
お互い手を振り、見送る。

さて、このあたりで今日の風景印をいただこう。
海岸線の国道が松崎の町に入ったところで、道なりにしばらく行くと、白くて2階建ての郵便局が見えてくる。
松崎郵便局だ。
ここ松崎の名にちなんで、松のデザインの切手を貼った。

絵柄はご当地松崎海岸と弁天島
かすみの向こうには富士山がのぞく

松崎の町では、名物の「桜葉もち」を数箱買い求め、さらに三島へ向かう。
今日は、空気も澄んだ日本晴れ。
車窓からは駿河湾をはさんで、雄大な富士山のみならず、その向こうはるか遠くに、雪を冠した南アルプスの峰々までが浮かんで見えていた。

土肥の町を過ぎてからは、峠越えの道をうねうね走って、たどり着いたのが「道の駅月ヶ瀬」。
こちらは、伊豆半島9つ目の道の駅で、本日これにて伊豆の道の駅を完全制覇。駅スタンプもシッカリ押した。
この道の駅では、よくある物産販売にまじって、地元のシロウトの人が作ったとおぼしき菓子などが売られていて目を引く。
おいしそうなモノを発見してしまい、急きょティータイムに。
日当たりのいい眺望抜群のサンルームがあったので、そこに陣取って広げたのは、ドライフルーツケーキとラテ。
この、名もなき人が(実際には、道の駅販売品にはすべて生産者の氏名住所が明記されている)手作りした(らしい)ドライフルーツケーキが、ものすごい旨さで腰を抜かした。
ラム酒がしみしみで香り高く、しっとりとしたケーキに、これまたラム酒タップリの砂糖衣が厚く被さっていて超一級品だ。
これが、伊豆市梅木町◯◯番地の◯崎◯子さんの出品だというのだから、道の駅はおそろしい。
すっかりこのケーキに心を奪われてしまい、さらに2切れを明日たべようと買い増しして、やっと道の駅をあとにした。

伊豆半島を周遊して、最後の立ち寄りは「柿田川湧水公園」。
ここでは飲用できる湧水を、持ち帰り用に汲み、またしても散策路を歩く。
さして広くはないが、水辺には木道が整備されていて、そこを歩くのは面白く飽きない。足下を流れる湧水は、言わずと知れた富士山の伏流水で、清らかな水の中では水草が揺れている。
三島では鰻でも食べて帰ろうと思っていたのだが、お腹がいっぱいでどうでもよくなった。
そろそろと車を出し、沼津インターから東名高速に入る。

普段、この辺りから帰るには、東名高速は使わない。下道で箱根の山を越えて海沿いに走る。
今日のところは、東名高速に新たに出来た「綾瀬スマートIC」を利用してみたくて、いつもと違うルートにしたのだ。ついでに「海老名サービスエリア(上り線)」も見学。
この超大型サービスエリアは、様々なもてなしで旅行者を楽しませてくれるが、今日の特筆事項はトイレの個室ブースだ。
用を足すべく座っていると、頼みもしないのに疲労度を測定してくれるのだ。トイレ紙のすぐ近くにモニターが設置してあり、おそらくは便座の方にセンサーがついているのか。
現在の疲労度は「疲れていない」と出て納得したが、もっと他の事にお金を使ってほしいと思うのも正直なところ。(これは偏屈だろうか)
一方で、ハイウェイスタンプの手入れは非常に良く、スッキリくっきり押すことが出来てとても満足。郵便局の風景印には及ばないものの(NEXCOさんごめんなさい)、高速道路のかたわらに咲く花のようで愛でずにはいられない。

地元民には嬉しい江ノ島の灯台とヨット、サーフィン風景の絵柄

高速道路本線に戻ってほんの一瞬走ると、もう「綾瀬スマートIC」だ。
料金ゲートを出てするりと行ったら県道にぶつかって、そこを南に走ればものの30分で自宅だった。
いつも使っていた海老名インターと比較すると、どちらに軍配が上がるのかは微妙なところ。通行料金は海老名で下りたほうが100円安い。
いろいろ発見の多い旅だった。

(了)


クセの強い旅に最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。





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