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おじいちゃんの猫

おじいちゃんの家は、飛行機で一時間半くらいの場所にあった。両親も旅費を気にしてか、幼い頃から、年一回、夏休みに少し長く帰るくらいだった。

だから、おじいちゃんとも、おばあちゃんとも、あんまり話した事がない。会っても、人見知りな私から話しかける事なんてなかった。

おじいちゃんの家に行く最大の楽しみは、おじいちゃんの猫に会うことだ。

その猫は子どもが嫌いで、私が行くとすぐに逃げてしまうのだけど、ごはんの時には必ずおじいちゃんのそばにいる。私も猫を触る勇気がないのだけど、おじいちゃんの手からごはんを食べる猫を見るのが好きだった。

その猫は、私が生まれる前からおじいちゃんの家にいた。お母さんが里帰り出産して、生まれたばかりの私の足もとで、猫が丸くなってる写真が、私のお気に入りだった。

でも、自分のうちで猫を飼い始めてから、兄が中学校に入ったりして、猫を預ける先もないし、なんとなく、おじいちゃんの家には行かなくなった。

高校生の時、その猫が亡くなったと聞いた。

19年も生きれば、長生きだ。

でも、おじいちゃんも高齢だから、新しい猫は飼わないことになったらしい。

詳しくは覚えてないんだけど、それからすぐに、おじいちゃんは体調が悪くなったんだと思う。お母さんが、猫を飼わせてやったら良くなるかしら、というような事を言っていた気がする。

おじいちゃんが亡くなって、そのあとおばあちゃんの具合が悪くなった。大学生以降、お母さんが会ってほしいと言うから、なんとなくまた毎年一回、会いに行くようになったけど、向こうもボケているし、こちらも覚えてもらってるか不安だし、ほんとに、数分、会うくらいだった。

おばあちゃんもこの間亡くなった。

もし今…今だったら、おじいちゃんに猫を飼わせてあげたい。子猫じゃなくて、保護されて行き先のない、大人の猫。私は一緒に住むか近くに住んで、猫の写真をSNSにアップするんだ。

猫を通して、おじいちゃんと、おばあちゃんと、仲良くなって…たくさん話をしたかった。

そうしたら、おじいちゃんも、おばあちゃんも、まだ元気だったんじゃないかって、そんな妄想をするんだ。だって猫のちからってすごいんだぞ。

おじいちゃんとおばあちゃんの未来が変わらなくても、そうやって何年か、一緒に過ごしてみたかった。

私がこんなに猫を好きなのは、お母さんが猫が好きだからで、お母さんが猫を好きなのは、おじいちゃんがすぐ猫を拾ってきちゃうからだった。

私のルーツを、もっと知りたかった。

今となっては叶わない、当時は高校生、大学生だったから、思いつきもしない。

そんな夢の話。

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