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何かできることはありますか?で始まる接客のコミュニケーション

僕のキャリアはホテルマンで始まった。

配属先はベルボーイ。
現場勤務初日、先輩ベルボーイに付いて、
OJTを行った日のことは一生忘れない。

ある海外からのお客様を、
お部屋へご案内しているときだ。

エレベーター内で、とても早口の英語で、
お客様から何か話しかけられた。

???
僕は当然理解できない。

先輩ベルボーイは、ひとこと
No.」と言った。

お客様は、あぁ、そうか。
という仕草を見せて、肩をすぼめた。

案内後の帰りの道中で聞いた。

すごいですね。
何言ってるか全然分かりませんでした。
なんて聞かれたんですか?

先輩ベルボーイは一言、

分からん。


きっと僕の口は開いたままだったはずだ。


その後、業務を重ねるうちに、
僕が接客するなどあり得ないような、
様々なシチュエーションに恵まれた。

皇室の方、経済界の有名な方々、
芸能人、スポーツ選手、作家、音楽家・・・
どの方も第一線、超一流の方々だ。

そんな方々と、わずか数分だが、
お部屋へご案内するまでの間、接客が出来る。
その際に勇気をもって会話をしてみる。

あ、皇室の方には恐れ多くて、
話しかけられなかったけども。

お客様の対応は様々だったが、
会話をしてくれるような方だと、
とても楽しかった。
そして、色々学ばせてもらった。

何ものにも代えがたい、
僕の宝物の時間だった。
仕事上でこう思えた経験は大きかった。

ご案内し終わった後、僕は必ず

「なにか必要なことはございませんか?」

とお声がけしてお部屋を出ることにしていた。

今は知らないが、当時のマニュアルに、
その一言は無かった。

概ね、お願いされる事は無い。
けど、その一言をかけることによって、
コミュニケーションの終わりに挨拶をして、
ひと段落したという実感を持っていた。


海外のお客様にも慣れてきたころ、
僕は英語のできるフロントスタッフの先輩に、
何か必要なことはございませんか?
の、英語の言い方を聞いた。

先輩はこう教えてくれた。

Is there anything else, I can do for you?

でいいんじゃない?

それから僕の英語実践が始まった。

海外のお客様は、実は聞きたいことが山ほどある。
その一言がきっかけで、とりあえず聞いてみよう。
と、ホテルに関係ないことでも聞いて来られた。

時に聞き取れなくて、理解できなくて、
手間だろうけど紙に書いてもらったりして、
まずは理解するように努めた。

そんな英語力の無い自分でも、
何とかして差し上げたい。
という気持ちは伝わるのを知った。

そして、理解しよう。とする姿勢と、
伝えようとする姿勢、
そのどちらもスマートではなかったがゆえに、
お客様に響くのだという事も学んだ。

とにかく、その場でお客様の不安を取り除く。
を信条に続けていたのだが、
おかげで、僕はよくお客様に可愛がってもらえた。

分かりやすい例で言うと、
頂き物をすることがよくあった。

ボストン在住の方に、
レッドソックスのTシャツを頂いたり、
タイから来ていた貿易商の方に、
タイシルク100%のシャツを貰ったこともある。
(今でもそれは宝物だ)

もちろん、一番の喜びは、
お客様からの感謝の言葉だ。

だけど失敗もある。
全てが上手くいったわけではない。

あぁ、英語話せないんだね。
もういいよ。
と、残念な顔つきで言われたときは悔しかった。

あ、聞いた自分が間違っていたよ。
と、話を途中で打ち切られたこともあった。

それらも含めて、いい経験だった。

でも、続けたおかげもあって、
僕は社内の英語力のテストで、
課内でずっと一番の成績だった。


その後飲食業にキャリアチェンジしたが、
その時の成功体験は活かされた。

それは、
マニュアルで行うサービスではなく、
して欲しいサービスを聞くこと
して欲しいであろうことを想像すること

今後また違う職種にキャリアチェンジしたとしても、
きっと活かされることだと思う。

どんな形であれ、顧客がいるからこそ、
仕事は成り立っているからである。

Is there anything else, I can do for you?

は、僕のキャリアにおいて、
もっとも大事な考え方なのです。

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