水道事業の脱炭素を考える

国連が昨年9月20日に開いた「気候野心サミット」。そこでグテレス事務総長は「人類は地獄の扉を開けてしまった」と気候変動について表現し、地球温暖化を「地球沸騰」と言い換えた。気候変動の課題はいよいよ深刻として、踏み込んだ温室効果ガス排出削減を各国の地球市民に求めた思考だろう▼日本政府においても、2020年10月に菅元総理の所信表明演説において、2050年までに「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言したが、それ以降、国の検討と具体的な取組は、「新たな地域の創造」として環境省を旗振り役に、さまざまな脱炭素、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた施策などが議論されている。また、国と地方の協働・共創による「国・地方脱炭素実現会議(内閣官房)」では、とくに地域の取組と密接に関わる暮らしや地域社会といった分野において、国民・生活者目線での2050年脱炭素実現に向けたロードマップなどがとりまとめられている状況にある▼しかし、これら国・自治体、さらには市民に向けた脱炭素の取組・検討は、スローガンとしては一定の浸透性をもって役割は果たしていると評価できるものの、その実態は遅々として進んでいないのが現状であると言わざるを得ない▼現総理である岸田総理のもと気候変動対策は、上述の国連の呼びかけに呼応した実効性ある対策が打てていないことを透けて見られ、G7議長国であるにも関わらず発言の機会を得ることができず欠席するという状況で、いまや国際社会から見た日本は、気候変動対策に対して「きれいごとを言うだけ」という、笑えない事態となっている▼また、政府主導の気候変動対策にかかる有識者会議などの対策会議は、各省五月雨に開かれ検討されているものの、他国のスピード感などを鑑みればその本気度は疑わしく、これも実効性あるものとして進んでいるとは言い難い状況であることは明白で、残念の極みであると言わなければならない▼一方、世界の企業活動における気候変動対応を俯瞰してみると、例えばApple社の製品である腕時計のAppleWatchは、新型機種より「完全ゼロカーボン」を達成した製品として販売される予定となっている。他の外国企業においても同様に、いまやカーボンゼロでなければ商品として成立しないということがグローバルスタンダードとなりつつ、関連する企業の入札やパーツ納品すらその規格に適わず、「カーボンニュートラルの取り組みが出来ていないところは国際競争の入口にも立てない」といった様相である。このような国際競争下にあって、日本の企業が世界で勝負するには、国・自治体の取組をはじめとする脱炭素に向けた行政サポートや意識の向上が何より必要であると考える▼カーボンニュートラルは、菅元総理が行った迷惑な宣言などではなく、努力や検討課題といった生ぬるいものでもない。私たち自身が真剣に考え行動しなければ、早晩世界に取り残される、相手にされないという事態を引き起こしてしまうという、大きな影響を持つ「私たち自身にとっての密接な問題」である▼このような状況下、水道・下水道事業はどうだろうか。大量の電力消費を前提とする水道事業は、相も変わらず効果の薄い省エネ対策でお茶を濁しているようも映る。誰も経験したことのない気候、時代に突入するにあたって、踏み込んだ脱炭素行動を起こさなければ、地域の地場企業や産業において、世界で闘う企業はカーボンゼロが基本であることを前提に、それら企業活動をする上で、ややもすれば「地域の水道が脱炭素に向ける意識が薄いから世界と闘えない」といった事象が発生してくるのではないか。またその反面、脱炭素意識の高い自治体、水道・下水道の地域においては、企業にとっては「移転し生産」といった行動に連動して「まちおこし」といったマルチベネフィットの展開を生むことも可能であろう▼大量に電力消費する水道事業にとって脱炭素は、かなり難問でハードル高く億劫になりがちなテーマである。しかし一方で地域の下水道を見ればカーボンが集まる施設といっても過言ではないほどの多岐にわたる脱炭素行動が考えられ、自治体全体で見れば様々な施策が考えられるはずである▼「ピンチはチャンス」、あらゆる行動を起こすことが何より重要である。偉大な先人たち誰もが経験したことのない時代に突入し、とくに課題先進国と言われるここ日本において、正解どころか最適解さえも見えぬ暗中模索ながらも、私たちは未来に向かって進んでいかなければならないのは明白である。答えは日々の現場や市民のニーズ、地域の特異性など様々なところに内包されている。ひとり一人が勇気をもって行動することだけが、私たちに求められる「解」へと向かう唯一の手法である。足踏みしても靴底が減るなら「恐れず行動」前へ前へ進みたいものである。

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